拓風

おくりびとの拓風のレビュー・感想・評価

おくりびと(2008年製作の映画)
2.9
思ったよりもくすっと笑ってしまうような部分が多く、ともすれば湿っぽくなりがちな材料を上手く料理した感じ。

モックンの所作は確かに美しい。特典のクレジットなしのものを惚れ惚れと見た。そう言えば、今は亡き祖母が、大河ドラマ『徳川慶喜』を演じているモックンを見てベタ惚れだったのを思い出した。

個人的にも、人の「死」に多少なりとも関わる仕事をしていたので興味はあった。
確かにそういう仕事についていると周囲からの目が気になることも多い。身近に「死」に触れていない人からは特に。
けれども誰もが通る道、というかたどり着くのが「死」であり、それは穢れでも何でもない。
それでも穢れと言うのなら、最後は皆穢れるのである。穢れを嫌う人も、いずれ穢れるということになる。
特別なことではあるものの、誰にでも分け隔てなく訪れるもの、それが「死」であり、そう考えると「普通のこと」なのである。

見ていて、一般に「泣ける」シーンは何となくわかったし、たぶんそこをポイントとして撮ってるだろうなということも伝わってきた。

しかし、個人的にはそれ以外の、登場人物の些細なセリフたちに考えさせられることが多かった気がする。

ちゃんと遺体を持てないモックンが「ちゃんと持て!」と叱られる場面、火葬場での「燃やすのが上手ですけえ」「また会おうのう」など、秀逸なセリフがたくさんあった。
中でも心に残ったのは、ある場面の「旨いんだよなぁ、困ったことに。」と言うセリフ。
それぞれに色んな想いがこめられている気がした。

映画を彩る音楽やロケ地も、盛り上げる材料として最大限に力を発揮している。
聞くところによると、上映版とは多少違っている様子なのだが、もともと映画で見ていないので特には気にならない。

納棺士という仕事は全国的なものではないにしろ、この映画でこういう人の死に関わる職業、また残された方の見送り方、そして何より「死」に対しての価値観など、色々なものが見直されるであろう事は喜ばしいことだと思う。


「散る桜、見送る者も散る桜」なのだから。
拓風

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