"今は眠ってガキの時分の夢でも見てな"
結核になってしまったヤクザの三船敏郎が飲んだくれ町医者の志村喬に渋々通院するところから始まるハードボイルド人情ドラマ。
これまで黒澤映画における三船敏郎には荒武者、野武士のイメージが先行してたけど、本作から当時の日本人離れした色気とダンディズムがある事が如実に分かる。
そしていつも好々爺になりがちの志村喬は目がギラついたトンパチ系町医者のキャラが良い。
双方に共通してるのは正しさ故の脆さ。才能はあるけど不器用、というか酒のせいで人生に大きく影を落としているのが興味深い。
男の意地を通すか、養生するかで揺れる三船の葛藤が悩ましい。とても人間味を感じる。
ダンスホールでちょい役の歌手として出てくる笠置シヅ子の躍動感がすごい。昭和初期の雰囲気がブワッと出る。
映画技術的にも三船が兄貴分とバトルする際の三面鏡や外通路の間取りの使い方が臨場感を掻き立てて良い。こういうギミックが後の羅生門に繋がるのだなあと感心した。
黒澤映画お決まりのラスト台詞の教訓が身に沁みる。
因みに本作は我が心の師、今村昌平(『復讐するは我にあり』『うなぎ』)が映画監督を目指すきっかけになったという一本。
確かに今村作品の持つ土着性、地続き感溢れる生命力を描く作風は本作と類似性が大いにあると思った。
ものすごい力作です。