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ゆれるのsacoのレビュー・感想・評価

ゆれる(2006年製作の映画)
4.3
オープニングからラストのエンドロールが流れるまで良く出来た純文学小説を読んでいるようだった。

東京で写真家として成功している弟猛(オダギリジョー)と、地方の実家で父を支えながら地道にガソリンスタンドを営んでいる兄稔(香川照之)。
母の一周忌に久しぶりに帰郷した猛は、稔に誘われて幼馴染の千恵子(真木よう子)と3人で思い出の渓谷へと出かける。その渓谷の揺れる吊り橋から千恵子が落ちて死ぬ・・。側には稔だけがいた。果たして何が起こったのか・・というところから物語は始まる。

事故か事件か・・その真相を探る面白さもある。しかし、すごいのはそこではない。その真相を巡って、兄弟の隠れた心理を徐々に浮き彫りにしていく描写が素晴らしく、深い。
都会で自由に生きる弟と地道に田舎で働く兄のやるせなさと・・。衝撃的な出来事から、その歪みが次第にあきらかになってくる。
信じきることの難しさ、兄弟といえども心の底の見えない部分の切なさ。気付くことで、あるいは許すことで初めて本当に歩み寄る心。

そういった揺れ動く葛藤や、嫉妬心、怒り、悲しみを台詞ではなく、繊細な目の動きや表情で語るオダキリジョーや香川照之の演技には舌を巻くばかりだ。秀逸。

猛が千恵子と交わった後に帰宅して襖を開けると、きちんと正座をして洗濯物をたたむ稔の背中・・がある。その時の2人の言葉のやり取りと香川照之の背中の演技は見事だった。

全編に無駄なシーンがないのもすごい。何気ない短いシーンにも強いインパクトを感じる。冒頭の法事の席で、父(伊武雅刀)がぶちまけた膳を片付ける稔のズボンに滴り落ちる徳利の雫など特に印象に残った。

父の兄役で弁護士の蟹江敬三もよかった。でも、裁判官の役に田口トモロヲと検察官役のキム兄は適役とはいいがたかったと思う。大事な裁判のシーンの緊張感が彼らが出ているだけで微妙に緩み残念だった。

脚本、監督は西川美和。こんな作品を撮る女性ってどんな人だろうと思ったら、写真で見る限りでは可愛らしい人だ。『蛇イチゴ』も荒削りではあったけど、すごく面白かった。
これから、とっても注目すべき監督だと思う。
楽しみだ。

2006.11.8 記
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