マヒロ

アシク・ケリブのマヒロのレビュー・感想・評価

アシク・ケリブ(1988年製作の映画)
3.0
裕福な家に生まれた恋人との結婚を考えている吟遊詩人の青年アシク・ケリブだったが、貧しい家柄のせいで相手の父親に門前払いを食らってしまい、出稼ぎの旅に出ることになるが……というお話。

相変わらず偏執的なまでにこだわり抜かれた画面や抽象的な描写などパラジャーノフ監督らしさが満載の映画だが、カメラがそれなりに動くようになったりコメディチックな演出が見られたり、何よりストーリーもより分かりやすくなっていて、かなり肩の力が抜けた作品になっている印象。

興味深かったのが、今作には「ざくろ」が多く出てくることで、そのものずばり『ざくろの色』というタイトルの映画があったり、前作『スラム砦の伝説』でも一部のシーンで出てきたりと頻繁に用いられている物なんだけど、結局ざくろは監督にとってなんだったのか?というところが今作でなんとなく分かる様になっている。解釈にもよると思うが、映画冒頭で映されるざくろの実が、中盤で「死」が語られる場面では真っ黒になり、ラストでその死が覆される幸せいっぱいの場面では打って変わって真っ白に変わっており、ざくろというのは"命"そのものを表しているのではないかと感じた。『ざくろの色』では、死にゆく主人公がざくろの汁を浴びることで血を流しているように見せているし、『スラム砦の伝説』では戯れにざくろを剣で切って遊ぶ二人の兵士が出てくるが、彼らは命を弄んでいる……という比喩表現だったのかも。
こうなってくると、これまでの作品の意味ありげな描写の数々も、今作を観た上で振り返ってみると謎が紐解けてくるような気がして、作品を超えて腑に落ちて妙にスッキリした感じ。

余りにも強烈な個性にギョッとしてしまうところもあったけど、絶対に他の映画では味わえないような感覚があったのは確かで、パラジャーノフ監督作品、観て良かったと思う。

(2020.69)
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