フライ

冬の華のフライのレビュー・感想・評価

冬の華(1978年製作の映画)
3.7
本作は高倉健定番のヤクザ映画だが、これまでの作品とは違う彼の持つ無口で哀愁漂う雰囲気がどハマりしているとても好きな作品。
個人的に高倉健の初期ヤクザ映画は余り好きではなく、晩年の哀愁漂う作品が好きなのだが、本作はヤクザ映画とは言え彼の持ち味を活かした哀愁漂う雰囲気がとても好きな作品。降旗康男監督と倉本聰脚本で製作した人間味を凝縮した内容は、高倉健を熟知しているからこそ魅力を引き出す事が出来ていると思えた。
組を裏切った兄貴分を殺し、その娘洋子に養育費を送りながら見守る高倉健が演じる加納は、ヤクザなのに刑務所から文通をすると言う優しい設定自体が、かなり異色に思える。だが作品が進み、彼が抱える色々な悩みや問題が見えてくると納得出来るし、作品に深みを感じた。更にヤクザ映画で有りながら洋子の愛するチャイコフスキーの音楽に視点を置いたり、組長がシャガールの絵画を好むなど周りの人達の人間味の深さや優しさが分かると同時に、加納が愛する人達への思いやりの強さと理由が色濃く感じられ余計感情移入させられる。当然ヤクザ映画なので抗争や裏切り、殺しなど残酷な面も見所ではあるが、それ以上に加納が抱える世話になった人への義理人情を取るべきか、堅気になるかの葛藤が見ていてとても苦しく、彼の優しさが逆に自分自身を苦しめている姿は見ていてとても辛くなった。
ヤクザ映画としての緊迫感もあるが、それ以上に、優しさと哀愁に溢れた高倉健の魅力をめいいっぱい引き出しているので終始好感が持てたし、楽しめた。
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