イホウジン

東京物語のイホウジンのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.8
まさに“日本の”映画。

この映画がこれだけ評価されている最大の理由は「特に何も起こら」ない点だろう。
映画の8割方は観ながらでも容易に想定できるようになっていて、分かりやすいフラグもあちこちに立てられている。ストーリーも淡々と時系列をこなすだけで、登場人物の多さの割に頭が混乱しなくてよい。
そして、この「何も起こら」ずテンポの良い展開が、ラストの2人の会話劇を引き立たせるのである。それまで登場人物ほぼ全員が本音を互いに隠し合いながらポーカーフェイスで接していたという事実に、最後の紀子の感情の爆発によって表面化するのである。この会話劇が直接血の繋がらない二人によって繰り広げられる点に胸が痛む。
おしなべて考えると、高度成長の黎明期に現代の核家族化を暗示させるような悲しい映画である。映画の中ではまだまだ家族構成が複雑で古さを感じさせる一方で、仕事に追われる姿や不可思議な孤独感などは現代日本の行く末を予言していたかのようだ。
映画の登場人物の世代的な幅の広さもよい。父母,息子娘,紀子の3つに大きく区分されるが、恐らく観客の年齢でどれに感情移入してしまうかが変わるだろう。それだけ世代間の考え方の違いを強烈に描いており、それを肯定も否定もしないという姿勢に、小津監督の思想が伺える。

とはいえ全ての登場人物の表現が素晴らしかったかと言えば微妙で、息子娘あたりはもう少し時間を割いてくれても良かったのではとは思ってしまう。
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