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フットルースのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

フットルース(1984年製作の映画)
4.5
2011年のリメイクを観る前にオリジナルを久々に鑑賞。権利拡大運動に対する反発やHIVへのレーガン政権の対応で同性愛嫌悪が渦巻いた時期に、彼らの人権と社会の受け入れを訴えた80年代ゲイ映画の金字塔です。

「え?」と思われた方は最後までお読みいただくと、「教会にナイトクラブを」に込められた願いと有名なラストのダンスシーンに隠された本作の美しいメッセージに驚くはずです。ただ時代の空気に配慮して、それを一切ゲイのキャラクターを配さずに仕上げたのがすごいところでもあり切ないところでもあります。

久々に観るとどうでもいい部分がいろいろ気になった(笑)。ミュージカル好きな私は登場人物が突然歌って踊るのに違和感があるという感覚はわからないけど、学校や家族にモヤモヤして突然車を走らせ工場にgoして華麗にダンスをするのはそんな私にも謎だった。しかも確かにすごいダンスだけどカッコいいかと言われると微妙... そして、アリエルの電車シーン、あんなことされたら自分なら100年の恋も醒める。

主人公のレンはアリエルに恋するからもちろん表面的には異性愛者なのですが、ゲイを暗喩というかシンボライズした存在になっています。当時からゲイっぽいと話題になっていたダンス好きはもちろん、田舎が苦手、革ジャンにネクタイ、スキニーパンツでオシャレ登校、大型車の運転ができない、憧れの部はアメフトじゃなく器械体操、洗車からの水かけっこ、身体を密着させるレスリングのような喧嘩やじゃれあい、公開時物議を醸したポルノまがいのシャワーシーンに石鹸を拾うためかがむ男性("drop the soap")、これでもかというほどステレオタイプ的なゲイ要素が詰め込まれています。レンをいじめるチャックの車にレインボーのステッカーが貼ってあるのも憎い演出です。

教会は、社会的弱者や罪深き人、貧しい人、老いも若きも神の愛で包む"safe place (安全な場所)"とよく表現されます。しかしゲイにとっては、自己を否定され、地域住民から白い目でみられ、矯正という名の虐待を強いられ、はたまた神父から性的暴行を受ける可能性もあり、ちっとも安全な場所ではありません。対照的にLGBTQコミュニティに寛容なナイトクラブは比較的彼らにとって安全な場所とされます。本作でも当時の映画としては非常に珍しく街のクラブに入るシーンに手を取り合い幸せそうなゲイカップルがさりげなく映っています。これでもうお分かりでしょう。なぜお友達が「教会にナイトクラブを」と言った途端、レンがキラキラ目を輝かせて「それだよ!」と大興奮したのか。

都会のシカゴから教会が支配する保守的なド田舎に引っ越してきたレンは、あっという間に地域から問題児としてレッテルを貼られ迫害を受けます。そんな生きづらい排他的なコミュニティの中枢である教会がナイトクラブのような安らぎの場所になればいいのにと思ったレン。異質な存在、マイノリティを寛容に受け入れることではじめて彼らに安全な生活の場が提供される。そして、ラストのダンスシーンの不自然なまでのキラキラは、その寛容さがいかに地域社会全体を輝かせるかということを伝えています。だからこそこの場面はアイコニックで美しく、映画史に残る名シーンになったというわけです。

まあでもちょっと安っぽい青春映画感は否めない?いや、それこそが政治的メッセージを反発を招くことなくさりげなく伝えるための「偽装工作」だったに違いありません。

2011年にこの作品をリメイクした監督クレイグ・ブリュワーは、「80年代の当時にゲイの友達と一緒に育った僕にとって、この映画の主人公レンはヒーローだったんだよ」と語っています。さて、リメイクの出来はいかに?(まだ未鑑賞です)
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