ninjiro

ワイルドバンチ/オリジナル・ディレクターズ・カットのninjiroのレビュー・感想・評価

4.6
子どもの夢は誰にも宿る。
それが悪人なら、尚更だ。


最後の仕事になるはずだった。
強盗団ワイルド・バンチ。率いるパイクは腕利きの切れ者。しかし変わる時代と寄る年波を痛切に感じていた。
今回の計画は、騎兵隊を装って街の通信事務所に押し入り、鉄道会社の銀貨を奪う算段、首尾良く行けば血を流さずにこの仕事を終え、余生を平穏に暮らす為の大金が手に入るはずだった。

しかし、鉄道会社は捕えたかつてパイクの相棒ソーントンを、その身の保証という名の逆説的な脅迫によりパイクを追うためのハンターとして利用し、この街にパイクらを誘い込んで捕らえる罠を仕掛けていた。
図らずも始まる、街を丸ごと巻き込んでの戦場のような撃ち合い。
男も女も、老いも若きも、善良な者も悪党も、誰彼否応なく巻き込む、理不尽にして激しい暴力の嵐。
撃ち合いの終わった後に蔓延るのは、累々たる遺体から価値を剥ぎ取る餓鬼ども。そこはあたかも、乾いた地獄だ。

かつて西部開拓史を一方的な目線で描くことで時代を彩った「西部劇」を終わらせた一本と言われる本作。実態として非道な暴力の歴史であったこの時代の一頁を嘘偽りなく描く。
そこに英雄はいない。
善悪の理も無く、ただ我が身に利する物の為に地べたを這い摺り回り、自らの命を晒し、等価の輩の命を奪う。掛け算、割り算なぞ知らない。足し算、引き算だけの世界だ。

命からがら逃げ延びたパイク達、多くの大切な仲間を失った。血を分けた者すらあっさりと残酷に。
それでも男達は現実を強い酒と共に無理矢理呑み込んで生きる。そして強がり笑うのだ。出来るだけ粗野に、下品に。
男なら、極道を歩むなら、当然そうすべきだと諭すその本能に従うように。
生き残った者は、これからもその本能と共に生きなければならない。
どんなものにも情けはいらない。己の信じるもの以外を信じるな。それが無法者の掟。

だが時代は変わる。
やがてそんな掟も意味をなくす。
もうじき俺たちの時代は終わるのだ。

乗馬の際、鐙革が切れて落馬するパイク。
仲間に老ぼれだと罵られながら黙って足掛かりなしに乗馬し、一人進む後ろ姿。
流れて暮らすにはもう歳を喰い過ぎた。
それを知りながら、男達が最後に鞍を降ろしたいと願う場所は、一体何処だったのか。

劇中、盗賊団の指揮官として何度も繰り返されたパイクの「let's go」の呼び掛け。
その最後の呼びかけに応える男達。
彼等の習性として、言葉は少ない。
所詮どこまでいってもドブネズミだ。
表通りを避け、ひたすら潜んできた彼らには、
言い訳も、言葉も、意味すら必要ない。

そして最早、損も得も関係ない。
眼は語る、剥き出した歯が語る、生き方が語る。
彼等の向かう先への一足一足は、歌をかき消す。
堂々と、日のあたる表通りを抜け、最後の舞台へ。
その姿に、その覚悟に震えろ。
それは何より眩しく、美しい。
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