あまね

ノッティングヒルの恋人のあまねのネタバレレビュー・内容・結末

ノッティングヒルの恋人(1999年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ロンドンのノッティングヒルで本屋を営むウィリアムは、冴えないバツイチ男。
そんな彼の店に、ある日偶然、ハリウッドのセレブ女優であるアナが訪れる。
これをきっかけに二人は恋に落ちるのだが――。

まるでお伽噺のような恋物語。
決して手が届かない高嶺の花の女性と、優しいだけが取り柄のどこにでもいる男性が、それぞれの立場も境遇も超えて強く惹かれあっていく。
舞台となっているノッティングヒルの風景は可愛らしく、小道具ひとつとってもお洒落で、画面全体からなんともコケティッシュな魅力が溢れていた。

ただ「なぜ、恋に落ちたか」の説明は一切ない。
びっくりするほど、無い。
大女優と一般男性でそんなことがあるのか?! と思うのだが、逆に考えればどんな立場だろうが「男と女」だということなのかもしれない。
清々しいくらい「なぜ」を描いていないので、突然始まる恋愛にしばらく置いてけぼりになってしまった。
開始から1時間半くらいは気持ちが映画に入り込めなかっただろうか。
なんで? どうして? ばかりが頭を巡って、どんな恋愛模様が描かれても、いやでもどうして恋に落ちたのさ? となってしまったのだ……。

また、物語中のキャラクターの力関係も、しばらく鼻についてダメだった。
大女優と一般男性であれば、もちろん女優に軍配が上がるのは当然だ。
その逆だったらなんだかちぐはぐになってしまう。
それでも、あまりにもアナがウィリアムを振り回し、ウィリアムはそれを諾々と受け入れてしまう。そんな「憧れのあの人が自分を見てくれる」というウィリアムの憧憬に胡坐をかいたような二人の関係が、どうにも気に入らなかった。
恋人がいるままにウィリアムと関係を持とうとしたアナ、それで破綻したかと思いきや、そのことに対する釈明も説明もないままにくっつく二人。
そして不都合が起こった瞬間、ウィリアムに酷い言葉を浴びせて飛び出し、音信不通になるアナ……セレブの感覚なのかもしれないが、いやちょっと待てと言いたくなる。振り回すというよりも、砲丸投げレベルでぶん回してないか?!

そんな気持ちが一気に引き込まれたのは、後半に入ってからだった。
もう一度やり直したいとアナがやってきた時、それまで色々と抱えて受け入れていたウィリアムがはっきりと自分の気持ちを告げるのだ。
それは、二人の関係をずっと見続けてきた視聴者(私)の心の代弁でもあり、また、ああやっぱりそうだったんだなと深く納得できる彼の心情だった。
ウィリアムがその言葉を放ったことで、最後の最後になって一気に(私の中の)物語の輪郭が立体的になったのだ。
それまで二人の関係で感じていたモヤモヤしていたことの大半が、その瞬間に昇華された。
それどころか、今までのちぐはぐとした二人のやり取りも、ここから先に踏み出すために必要なプロセスだったのだとさえ感じてしまったのだから現金なものだ。我ながら単純だと思うけれど、そういう性質なんだからしょうがない笑。

そこからはもう怒涛のハッピーエンド。
お伽噺の面目躍如!
あり得ないだろうというスーパー展開で。けれど、物語の中くらいこんな展開があっていい。否あって欲しいと思う、胸ときめく流れに心躍らずにはいられない。
王道だ。王道は素晴らしい。王道万歳!!
可愛くて、切なくて、隙がないくらい幸せなラストまで一気に観て、とんでもなく幸せな気持ちになった。

前半が少しモヤモヤするが、「セレブと一般男性の様々な恋愛シチュエーション」を見ているのだと割り切れば良いのかもしれない。
「なぜ」「どうして」と恋心の機微を暴こうとするのは野暮だと、そういうことなのかもしれないと感じた。
あまね

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