あまね

Diner ダイナーのあまねのネタバレレビュー・内容・結末

Diner ダイナー(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

人と関わることが何より怖く、人生に夢も希望もないヒロインのカナコ。
無彩色の生に意味を見失っていた彼女が、流されるように怪しいバイトに手を出し――結果、殺し屋専門のダイナーに売られることに。
店主のボンベロは元殺し屋。客も全て殺し屋ばかり。
一瞬でも気を抜くと命がない。そんな世界でカナコは生き延びることができるのか――。



とにかく演出が好き。映像であることを存分に生かしていて、あっという間に引き込まれた。
無彩色、無機質のカナコの世界。常に夕暮れで黄昏ている思い出の世界。それと対比される原色でド派手な殺し屋たちのダイナー。
生と死(物理的なものも、精神的なものも)の対比がなかなかに鮮やかだった。

カナコの過去を舞台劇風に見せてくれるのも、面白かった。
常に夕暮れ。常に「遠き山に日は落ちて」の物悲しいメロディ。
無条件に寂しい気持ちにさせられて、この音楽が流れているだけでこの場面は「過去なんだ」と脳が納得する。
だって、小学校の下校のメロディっだったから笑。そういう人、きっと多いと思う。

ダイナーの狂ったみたいな派手な装飾は、非日常の狂気を存分に感じさせてくれるが、それ以上にちょこちょこ挟まる演出がいちいちツボにハマった。
例えば歴代ウェイトレスの写真。
既に殺された彼女たちの写真は、いつも元気よく動いてはカナコを煽る。実に楽しそう。もういないのに。死んでいるのに。
元気に楽しく「こっちにおいで~」とカナコを誘う。
一方で、キッドが死体を切り刻む描写は、童話の切り絵風。直接的な血しぶきなどはなく、人形劇のように、切り絵のように、寓話的に表現されている。これも好き。

ただ、クライマックスのボンベロと新ボスとの戦闘は、少しばかりくどかった。スローモーションを多用していて、往年のマトリックスのよう。
さすがに漫画的過ぎて閉口した。
そこはもう少しスピード感あるアクションを見たかったかな。
スローモーションは一、二度くらいでいいと思う。多用するとかなり味付けが濃くて、むしろ笑えてしまった。

映像以外に音楽も良かった。
音楽というか、「遠き山に日は落ちて」が随所に流れるのが、心に刺さった。
派手な殺し屋専門ダイナーのスリリングな世界と、カナコの寂しい過去の両方で流れる曲。まったく繋がらない二つの世界は、けれど観る側では「カナコ」という一人の人間で繋がっている。
物語の芯が、「カナコの心」にあることを感じさせる。
また、スキンとカナコを繋ぐ曲でもあり、過去に囚われる者同士の鍵となる曲でもあった。

そして物語だが、カナコの心の物語がメインとなるため、カッチリとしたストーリー性といったものは感じられない。
ただ、それでいいと思う。
カナコの心の物語としては、真っすぐにきっちりと描かれていたから。
そう感じるのは、玉城ティナさんの演技が私にハマったからだと思う。
彼女からは、動かないヒロイン特有の嫌味な感じがしない。
ともすれば受け身で引っ込み思案のカナコだけれど、ただ震えているだけなのに、その変化が少しずつ伝わってくるのだ。
人が苦手で関われないカナコが、放り込まれたとんでもない状況で、それでも「死にたくない」という一本の糸を守りながら人と関わっていく姿がもどかしく、殺し屋たちの剥き出しの感情に触れながら、閉じていた殻を開いていく姿はとても健気だ。
思えば、殺し屋たちとの交流なんて、人付きあいの中でもハイレベル、最高難易度だろう。感情は剥き出しで理性なんて吹っ飛んでるし、狂気と正気が入り混じってる。でも、自分の欲望に対して嘘偽りのないその感情の中だからこそ、きっと彼女は自分の欲望を見つけることができたんじゃないかと思う。

物語の大筋は、ダイナーに売られたカナコが殺し屋たち相手のウェイトレスをしながら、殺し屋の過去の傷に触れたり、狂気に呑まれて殺されかけたりしつつ、店主であるボンベロのように「人の心を動かす料理を作りたい」という己の生きる意味を見出し、自らの意志でボンベロの傍に留まる決意をする。そこにボスの跡目争いが加わり――。といったもの。
ボンベロへのほのかな想いもある。
そして、ラストはハッピーエンド。

映像も、演出も、お話も、役者さんの演技も、どれも楽しめる良作だった。
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