あまね

THE GUILTY/ギルティのあまねのネタバレレビュー・内容・結末

THE GUILTY/ギルティ(2018年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

コペンハーゲンの緊急通報指令室を舞台にした、ほぼ声だけで物語が進んでいく静かな映画。
事件があり、謎解きがあり、様々な人々の感情が大きく揺れ動くけれど、観客はその姿や顔を見ることはない。
完全なるワンシチュエーション・ドラマだ。
けれど観客は「声」を通し、自らの頭の中に次々と映像を展開させていくことだろう。それだけ表情豊かな「声」の演技に惹きつけられた映画だった。

緊急指令室に勤務する警察官・アスガーは、勤務中に起こしたある事件が原因で第一線を引いている。
冒頭、裁判を控えていることが仄めかされており、何やら罪を負っているようであった。
そんな彼が勤務中、一人の女性からの緊急通報を受ける。
「誘拐された」怯えた声で彼女は告げる。
アスガーは彼女を助けようと、電話を通して事件解決を試みるのだが――。

サスペンスということで、謎解きや犯人との駆け引き、危機に次ぐ危機といったものを期待していたのだが、少し趣が違った。
しっかり謎解きはあるが、謎を解いていく爽快さはない。
謎を解くほどに陰鬱な気持ちになっていく。
「事件」のスリルと「解決」のすっきり感を味わいたいのであれば、見るのは止めておいた方がいい。
これは「誘拐事件」を媒介にして、人の心の最も辛く重たい部分に触れる物語だ。
逆に、人の心のどろりとした部分に浸かりたい、その心が蠢く様を見たいという人には強くお勧めする。
内容は重く暗いものだが、ラストは上り調子で終わる。暗いトンネルの出口を見た気持ちで観終わることができるので、後味は悪くないだろう。多分。

以下は、かなりのネタバレ。

「誘拐事件」のオチについては、かなり早い段階で予想ができた。
伏線が丁寧に張られており、サスペンスに慣れた人間であれば、恐らく序盤でピンとくるだろう。
そのため、女性の安否がどうなるか、彼女を拉致した元夫がどうなるか、そういった点でハラハラすることは少なかった。
だが、この物語の見どころはそこ(ハラハラ感)ではないので、ガッカリするには及ばない。
全てが明るみになり、全ての伏線が回収され、見事に一つのピースにおさまった時の絶望感と徒労感こそが秀逸で、見所で、まさにこの瞬間のために観てきたんだと、私は思った。
尚、絶望感と徒労感と書いたが、本作の主人公は決して好感度の高いキャラクターではなく、むしろ観ていて苛つく部分も多いので、主人公が絶望し、徒労感に苛まれた瞬間に若干スカッとする。
恐らく観ている側はそんなに絶望しないで済むはずだ笑。

「すべてが裏目に出る」
まさしくその通りで、本当に見事だった。
そしてその絶望が、それまでの主人公の在り様を諫めている。彼の思い上がりを叩き潰している。
アスガーはどうしようもない絶望を突き付けられて、ようやく自らを改めようと動きだすのだ。
「誘拐事件」を真に解決することが、彼自身の贖罪と救いになっていく。
そして、彼は絶望の先に一縷の希望を見出した。

物語はここで終わる。
大団円ではなく、ハッピーエンドとも言えず。
やってしまったこと、起こってしまった悲劇は悲劇のままだけれど、ただ、顔を上げて前を向くとそこに光が見えた。そんな終わり方だ。
後味は悪くない。けれど、決して良いわけでもない。

終わったのではなく、アスガーにとっては始まり――しかも、まだ一歩を踏み出したばかりなのだと強く印象付けられたのは、彼が罪を告白するのを聞くともなしに聞いてしまった同僚たちが、戸惑い、冷めた目で彼を見送っていた点からだ。
アスガーのみに焦点を当て、彼らの顔を無機質にぼかしているところに、作り手の非凡さを強く感じた。

非情に抒情的な映画という印象だった。
ハリウッドよりはフランス映画に近いイメージかもしれない。

余談だが、「悪いもの」=ヘビとするのは、多分、宗教的なものなんだろうな。
あまね

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