ヘルシア

魔女の宅急便のヘルシアのネタバレレビュー・内容・結末

魔女の宅急便(1989年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

魔女の修行に出た13歳の少女キキが、宅急便の仕事や新しい街の人々との触れ合いを通して、生きる自信をつけていく。
キキは明るく前向きな性格。ちょっとの失敗にもへこたれず、魔女の修行も楽しみにしていた。出会った街でどんな楽しいことが待っているのかとワクワクしていたが、そこでの生活は期待していたものと違っていた。あまり他人に構わない都会の人の素っ気なさや、頼れる人がいない心細さに自信を失ってしまったキキ。そんな中出会ったのは、キキに興味を持ち好奇心旺盛な男の子トンボと、住む場所を与えてくれた優しいパン屋の夫婦。生活の基盤を作ることができたキキは、宅急便の仕事を一生懸命やることで自信をつけていく。
しかし、魔女の修行は楽しいことばかりではなかった。一生懸命配達したけれど嫌な思いをしたり、風邪をひいてパン屋の奥さんに迷惑を掛けたりした。仲良くなって心を許したトンボも、嫌な女の子と友達だったと知り、裏切られた気持ちになった。宅急便の仕事でひとり立ちできると思っていたけれど、まだまだ未熟で、意地っ張りで、人の世話がなければ生きていけない自分に自信をなくしてしまったのだ。魔法の力が弱くなったのは、そんな自信のなさと迷いが生じていたからだろう。
そんなときでも、キキを支えてくれた優しい人たちがいた。パン屋の夫婦やトンボ、宅急便でお世話になったお客さんたちと絵描きの女の子だ。彼女たちはキキの未熟さなどは気にもとめず、存在を認めてくれていた。仕事ができないキキではなく、一生懸命生きようとするキキを見てくれた。そんな人たちを、キキも大事にしようとした。
トンボのピンチを見て、キキは考えるよりも先に体が動いた。どうにかしたい。助けたい。自分には何ができるか。自信を失っていたキキだったが、友達を助けること以外頭になかったのだろう。迷いは吹っ切れた。自分にできるかな、ではなく自分が「やるしかない」と心を固めたのだ。不慣れなデッキブラシでの飛行、それは万全とは言えないし、うまく飛べるかも分からない。そんな不安よりも、キキの友達を思う気持ちが勝ったのだ。トンボの絶体絶命の危機を救う魔女の見習いに対して、街中の人々が声援を送った。それは、この街を初めて訪れたときからは考えられない変化だった。何もできない、何処の馬の骨ともわからないと思われて街の人々と心の距離があった少女は、いま街の危機を救おうとし、その期待を一身に背負った。見事にトンボを救い脚光を浴びた少女は、恥ずかしながらも達成感に満ちた表情をしていた。何もできないと思っていた自分が、1人の友達を救い街を救った。自分を受け入れてくれないと思っており、住みながらも遠い存在に感じていた街は、キキの存在を祝福した。自分にもできることがある、人の役に立てると実感したキキは、胸を張って魔女の修行を続けることができたに違いない。
キキはたくさんの人に支えられて、背中を押されてきた。母から立派なホウキをもらい、父から愛情をもらい。村の人たちから応援されて、新しい街でも住む場所や仕事のやりがい、楽しい時間をくれた。ときにはうまくいかず、不安な気持ちでホウキを握っていた少女の小さな手は、自分の努力で大きなものを手に入れた。「信頼」である。人々の信頼を獲得したキキは、これからお世話になった人に、街に、感謝の気持ちを込めて、「宅急便」という仕事を通して貢献することだろう。一人前の魔女になるための修行は、ただ魔法が上手でお金を稼げる存在になるためのものではなかった。キキにとって修行は、一人の人間として自分を成長させ、自分の魅力に気づくことができた機会になった。それを生かしたのは、紛れもなくキキ本人の一生懸命さであろう。支えを糧に、最後は自分の力でやり抜く大切さを知った。この作品は一人の少女が自立していく物語として見ることができる。しかし、それは一人の力だけで達成できるものではなかった。多くの救いの手があり、彼女は前を向き直すことができた。そして、最後には自分の力を信じて、達成できたのだ。
相棒のジジは、キキの魔法の力で人の言葉を話すことができた。しかし、キキが自信を失ってから、ただの黒猫に変わった。ジジにはジジの物語があり、近所の白猫との恋仲を楽しんでいたのだ。相棒としてキキを支えなくてよかったのかと疑問を感じる展開だったが、あれはあれでよかったのだと思う。トンボのピンチを、キキ一人の力で救ったとする事実がほしいからだ。ジジが一緒だと、本当の意味でキキが自信を取り戻すことはできなかっただろう。ジジ以外にも、キキを支えてくれる存在はいた。相棒の役割は、何にでも顔を突っ込んで手取り足取りやってあげることではないようだ。キキの進む方向が間違えていないか、案内役を務めることは大切だ。しかし、ときには手を離し、自分の力で立てるように見守る時間も必要なのだ。信じているからこそ、そのような愛のある突き放しが可能となる。ジジはどうやら、恋仲を楽しんでいただけではないようだ。キキが自信をつけるために、あえてそばを離れる意味はあったのだ。それにしても恋を楽しんでいたように見えたが。
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