ヘルシア

TIME/タイムのヘルシアのネタバレレビュー・内容・結末

TIME/タイム(2011年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

時間を通貨とし25歳で成長が止まる世界で、富裕層と貧困層の格差社会に疑問を持つ主人公の男女が、本当の自由とは何かを求める。
コーヒー1杯4分、ホテル一泊1ヶ月など、お金で買えるものがすべて時間で支払われる世界観が面白い。時間=通貨とする価値観を再考することができた。我々は現実の世界でも、何かを得るためには対価として労働時間を提供している。時間の切り売り(時給)という考え方だ。また、少数の富裕層が莫大な時間を得て不死を手に入れるために、スラムと呼ばれる貧困層の町では毎日人が死んでいる世界も、大多数の犠牲の上に成り立つ格差社会を如実に表現している。富裕層が作った世界の仕組みは一方的に押し付けられ、その輪からは逃げ出すことができないようになっている。生きたければ、そのルールの中でもがくしかないのだ。ルールの外に出ようとすると、監視局がそれを許さない。難癖を付けて、時間を制限する。時間の制限は、つまり命そのものを握られていることと同義だ。マウントは常に、富裕層側が握っている。警察の役目を果たす時間の監視局もまた、富裕層の犬として働かされている。時間は余分に与えられず、言うことを聞く体制を崩そうとしない。
物語は、ふとしたきっかけで心優しい貧困な男性ウィル膨大な時間を手にすることから始まる。富裕層の世界で大富豪の娘ワイスと出会い、2人は惹かれ合う。欲しいものは何でも手に入る家に生まれたワイスは、無限の命と安全を保証された世界に生きていた。しかし、彼女はそんな自分の生き方に疑問を覚えていた。ウィルと出会ったことで、そんな安定した世界から脱することを夢見ていた。実際に誘拐されてスラムへと向かう中、そんな自分の考えが間違っていたことを後悔するが、父が自分を救うために身代時間を支払わないことや、スラムでの惨劇を目にして、その価値観は変わる。また、ウィルの優しい心にも触れ、彼女は生まれて初めて自由と愛を感じた。安定した世界を脱する夢は、ウィルとの生活を通して現実のものに変わり、次なる目標を生み出した。それは、世界の不平等を生み出すルールに一石を投じることだった。父への不信感もそれを後押しして、ワイスは強盗、傷害、脅迫など、生きるために、疑問だらけのこの世界を変えるためにあらゆる悪事に手を染めた。大義名分を得た彼らに、怖いものはなかった。
時間を通貨とする世界観の設定や、不平等な世界に疑問を呈する表現は面白かった。しかし、家族や親戚はどうなったのか、ウィルやワイスに葛藤は無かったのか、監視局やマフィアを相手に逃げ勝つことができるのかなど、細かな疑問を解消する布石は乏しい。全体の流れや結末に一直線に向かうために、人間の感情や障壁となる部分を蔑ろにさぜるを得なかったと感想を持ってしまう。洋画ならでは、SFだからと言えばそれまでだが、世界観が良いだけに惜しい。同じ設定で、日本人監督がリメイクしたらと期待を持っている。
働き方改革や情報化社会が当たり前になっている現代だからこそ、時間に対する価値観は万人が再考すべきことだ。そのきっかけとなる作品である。
ヘルシア

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