よしまる

非情の罠のよしまるのレビュー・感想・評価

非情の罠(1955年製作の映画)
3.6
 キューブリック長編2作目。
 
 のちに巨匠となる彼の作品と知らずに観たとしても異様に完成度が高く、まさか27歳の青年が製作から脚本、撮影、編集まですべて手がけたとはまこと信じ難い。

 筋というほどの話もなく、簡単に言うとしがないボクサーがギャングの女と恋に落ちる恋騒動。しかもこの妙な邦題がミステリーっぽくしてるだけであって、原題の「殺人者の接吻」というタイトルからはちょっと普通の恋愛ものとは違うぞ、とは思うことができる。

 というか、冒頭から主人公があらかたネタバレするという禁断のモノローグで始まるので、言ってみれば主人公死ぬの?どうなるの?ふたりな結ばれるの?みたいなハラハラ感は頭からまったく疎外されている。

 このやり方は多くを語らずともじっくりシチュエーションを楽しんでしまえるので嫌いではないのだけれど、サスペンスやアクションものにはあまり向いていない気がする。でもけっこう見かけるよね。

 エンディングが唐突すぎて、キューブリックが商業主義に走りすぎだとか、ハリウッドで這い上がるための策略だとかいろいろ言われているものの、観客であるボクたちはそんなことはどうだってよくて、要は映画として面白いかどうかってことに限る。

 途中に訳の分からないことを言い出すヒロインの戯言を方便と取れば筋も通るし、まあこれはこれでいいんじゃない?

 それよりも大概の台詞が名言だったり、当時は斬新だった肉弾戦だったり、静と動を巧みに操るカメラワークに酔いしれることのできる一級品であることに異論はないだろう。当然ながらキューブリック恐るべしだ。