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秋刀魚の味のBaadのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
3.8
これが小津監督最後の映画ということだからでもあるまいが、この映画は戦争体験への言及が多い。

戦中派と言っても従軍した年齢は様々だろうから、笠智衆演じる平山は大正初めぐらいの生まれか?

同窓会に呼ばれる数学教師は暮らしむきは良さそうではないので、旧制中学が公立ではないか、戦災等で大きな被害を受けたか何か余程のことがあったのであろう。

途中、秋刀魚ではなく鱧を初めて食べたと言ってありがたがるシーンがあるが、山の中で鮮魚が入手しにくかった京都ならともかく、海の近い東京や神奈川で鱧を食べて美味しいと思えるものだろうか?

この映画では重要なことは遠回しにしか語られないが、男女関係のようなどうでも良いことはあけすけに語られる。それだけ第二次世界大戦直後数十年の社会は誰かしらの琴線に触れてしまう事柄が多かったということだろう。

エロと天気の話はそれでも安全な類の話題だった時代だ。

なんの躊躇いもなく大声で軍歌を歌える加藤大介は、戦闘自体ではさほど痛い経験はしていないのだろう。

娘の縁談が重大な出来事として描かれるが、テーマはむしろ男たちの老後の生活と時代の移り変わり。

前の東京オリンピックの少し前の話なので、サラリーマンの生活はまださほど豊かではなかったようで、長男夫婦は子供を持つことを躊躇っている。

とはいえ、舞台が鎌倉ではないのは、松竹大船のあの粗末なセットでは住宅事情が悪い都内はともかく、戦災にほぼあわなかった近郊都市では不自然だと一般の人も思えるくらいには郊外の生活が豊かになってきた現れかもしれない。(私は地元なので、『麦秋』などは家の立て付けが借家にしても中流の上の暮らしむきの家庭にしては粗末すぎて頭が???でいっぱいになりました。)

長男夫婦の公団住宅と思しきアパートでの生活はさながらタイムカプセルで見ていて楽しかったし、岡田茉莉子が溌剌としていて良かった。

ラストの笠さんの仕草は含みが多く見事な演出。

初公開時に見たら、誰もが感情移入しやすいような含みの多い映画だったのだろう。

(戦争体験と娘の結婚 2021/10/30記)
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