りっく

さよなら、さよならハリウッドのりっくのレビュー・感想・評価

3.7
アレン映画の主人公は常にアレンの分身であると言われているが、アカデミー賞を受賞しながらワンマンぶりが敬遠されという設定、さらには劇中で登場する中国人カメラマン、そこで撮られる映画は40年代を舞台にしたフィルムノワールという点でかなり本人に近い境遇だろう。

ペシミスティックな風刺精神も、洗練性や先鋭性も、巧みな物語構成も後退する一方で、口うるさく注文を出すプロデューサーや自分本位な要求を繰り返す俳優に囲まれ、ストレスで失明になり、いかに周囲にバレずに映画を完成させるかという物語は古典的なドタバタコメディへの回帰を感じさせる。

かといってハリウッド映画の制作システムを糾弾しているわけではない。様々な事情を乗り越えて完成し、評価にさらされるハリウッド映画を、アレンは憎しみよりもむしろ慈しみを込めてカリカチュアしているように感じる。御都合主義的なあえてのハッピーエンドも、達観に根ざした幸福感に他ならない。
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