アラサーちゃん

満員電車のアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

満員電車(1957年製作の映画)
3.5

久々にドツボにハマった。
戦後の日本社会にぽいと投げ出された大学出の新人サラリーマンの悲哀。ロボットのように社会に生きる人間たちを絶妙な角度の風刺で描いたブラックコメディ。
面白すぎる。一筋縄じゃいかない、エッジの効いた映画が好きな人にはめちゃめちゃ勧めたい作品。

何が面白いかって、とりあえず変。違和感。なんか違和感。奇妙な映画を観ている変な気分。
でもそれが段々心地よく感じて、気付いたらその世界観にハマっている感じ。キューブリックとかリンチのカオス映画にハマる気分に似ている。

本気でやってるのか笑わせに来ているのか分からない。
ジャケットになってる川口浩と小野道子の別れのキスとか。仕事を五分で片付けたら一日かけて仕事しろと上司に叱責されるとか。白髪とか。船越英二のホラー映画ばりの胡散臭い笑顔とか。ラクダビールとか。

登場人物の名前なんて、社会の柵のなかで転げ落ちていく主人公が茂呂井民雄(モロイタミオ)、同じく社会に嫌気がさすガールフレンドが壱岐瑠奈(イキルナ)、会社員としての心得を主人公に託す同僚更利満(サラリミツル)、胡散臭い医者見習いの和紙破太郎(ワシヤブタロウ)。
そんなアホな名前があるか。

縁起悪いエピソードをさらっと描き、その時の登場人物の温かくも冷たくもない反応。まるでロボット。日本という社会に、機械のように動かされているだけのごとく。それを〖満員電車〗というタイトルに落とし込む上手さ。

風景の描写、もとい、くだらないアホくさい社会の描写がとても面白いのもみどころ。
人いっぱいのバス。病院。ハローワーク。モノクロで描かれるあのオープニングシーンは結構強烈かも。

監督は市川崑で、脚本は妻との共同執筆。
昔、名作を漁っていた時に〖犬神家の一族〗や〖細雪〗を観て、とりあえずいいとか悪いとかわからずに納得していたけど、やっぱり名監督はこんなハイセンスな映画を作るんですねスゴイ!!!
とはいえ、昔に出会わずに、このタイミングで出会えてよかった。今だからこそ楽しめる作品。普通の娯楽映画が好きな人は、たぶんぜんぜん面白くないと思うから、おすすめしたい人としたくない人が分かれる作品ではある!

私の中の三大ブラックコメディは〖博士の異常な愛情〗〖ファーゴ〗〖毒薬と老嬢〗なんですが、このシュールさはなかなかいい線行ってます。
格別に面白い!ってわけではないんですが、じわじわあとに残る面白さ。

笠智衆の独特の台詞回しは、この父の役にピッタリだし、とにかく船越英二の存在感もいいでさな。
助監が増村保造という点もとても気になる