アラサーちゃん

イン・ザ・ハイツのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
3.0
現代のミュージカル映画は「ラ・ラ・ランド」に代表されると思っていたけど、よりいっそうニューエポックなミュージカル映画の到来という意味で言えばこちらに軍配が上がるかな。とはいえ、どちらも好みの問題で、もちろん「ラ・ラ・ランド」は最高なんですけど。

分かりやすいからこのまま「ラ・ラ・ランド」と比較して言うと、そちらは「古き良きミュージカル映画のいわばゴールドラッシュのような時代を彷彿とされてくれる作品」でした。
「ああ!あのシーンがここに!」「こんなシーンも使われてる!」みたいな。ある意味、新鋭的というよりは、クラシカルな要素を現代劇に当てはめて、当時のミュージカル映画作品や映画人に対する畏敬の念を感じる作品だったわけです。

対して今作はというと、いい意味でゴールドラッシュ時代に「喧嘩を売っている」ような感じがした、もちろんリスペクトという気持ちも含めての、当時のミュージカル映画に対して真っ向勝負を挑んでいるような印象を受けたんですよね。
とはいえはなから敵意むき出しというわけでもなくて、舞台をアメリカに置き換えたボリウッド感だったりとか、現代にまでつながる移民の社会問題だったりとか、ミュージカル映画界のよい要素もふんだんに使われつつの、この裏切り、かつ融合。「ウエストサイド・ストーリー」を思い出しもすれば、「ダンシング・ハバナ」になぞらえもする。ひとことでまとめるのが難しいくらい、ミュージカル映画に新しく爪痕をのこすようなパワフルさ。

になってもいいはずなのに、印象としては少し地味ですね。圧倒的な熱意とパワーはすごく感じるんだけど、観た後の高揚感はとても素晴らしいのだけれど、数日経った後の存在感は少々もったいないですね。
人種や移民、そこにまつわる貧困や学業格差などといった題材は素晴らしいだけに、中身が薄くなってしまったのは残念。「ウエストサイド・ストーリー」が人々に与えた影響を考えると、もう少し波紋を広げてくれるような作品になっても良かったな、と思います。
(「ウエストサイド〜」の時代にありがちなアメリカンニューシネマ的展開より万事うまくオチがつくハッピーエンドが近年は好まれやすい、というのもわかるが)

とはいえ、観て後悔はない良作。とてもいい。観て満足。それこそ、このコロナで鬱々とした時代にはもってこいの圧巻のミュージカル映画だったんじゃないですかね。エンドロール後のおまけ、好き。