サマセット7

白雪姫のサマセット7のレビュー・感想・評価

白雪姫(1937年製作の映画)
3.6
ディズニーアニメーションスタジオ製作の第1作目の長編アニメーション作品。
監督はミッキーマウスの多数の短編映画や「バンビ」のデヴィッド・ハンド。
原作はグリム兄弟の同名童話。

[あらすじ]
とある国の美しき王女、白雪姫は、継母であり恐ろしき魔女である女王の妬心から、下働きの如き扱いを受けてきた。
女王は、魔法の鏡に世界一の美女は誰かと尋ね、女王であるとの回答を聞いて自己満足に浸る、という歪んだ習慣を持っていた。
ある日鏡が、女王の問いに対して、白雪姫こそが世界一の美女と答えたことをきっかけに、女王は白雪姫の暗殺を決行する。
しかし、刺客となった狩人は、良心の呵責に耐え切れず、暗殺に失敗。白雪姫は、山の奥、7人の小人の住む館に逃げ延びるが…。

[情報]
世界で最初のカラー長編アニメーション映画。
現在においても伝説的な評価を受けており、アニメ史的最重要作品の一つである。

170万ドルの1937年当時としては桁外れの製作費で作られ、6100万ドルを超える収益を叩き出した。
現在までの興収は、4億ドルを超えるとされ、ディズニー・アニメの一大興隆の先駆けとなった作品である。

[見どころ]
最初期にして、気合の入りまくったアニメーションの動き!!!
白雪姫が!動物が!小人たちが!!ぬるぬる動く!!!
ディズニーといえば、やはり歌曲!!
ハイ・ホーは誰もが知っている伝説的名曲!!!

[感想]
原作の童話は知っているが、アレを語るのに、到底83分もかかるとは思えない。
はて、何で尺を使っているのか?
という疑問は、鑑賞して解消された。
とにかく、話の本筋と関係ないディテールに、とてつもない尺と手間暇をかけている。

今作の実質的主役は、七人の小人たちであろう。
恥ずかしながら、先生、照れすけ、ごきげん、くしゃみ、おこりんぼ、ねぼすけ、おとぼけ、という個別の通称があることも知らなかった。
とにかく、彼らの仕事、帰宅、侵入者(白雪姫)の察知と恐る恐る自宅を捜索する様が、丁寧に丁寧に描かれる。
それぞれの小人に、通称と対応した個性があり、キャラクターが立つように、各個の見せ場すら用意されている。

最大の見せ場である「ハイホー」は、小人たちが仕事を終えて帰宅する場面で、家に帰ろう!と歌う歌。
きちんと夕方5時に仕事を終えるあたり、非常にワークライフバランスが行き届いている。

話の本筋とは別に、作中の脇役的キャラクターたちによるサブプロットを充実させるやり方は、初期ディズニー作品の特徴と言えるかも知れない。
少なくとも、有名な童話を原作とした、白雪姫、シンデレラ、眠れる森の美女には同様の特徴が見られる。

最古のディズニーヴィランである女王が、老婆に変身する描写にも、かなりの手間暇と尺をとっている。
その様は、ゲーマーがゲームのキャラクタークリエイトに時間をかける様子を想起させる。
彼女の行動には色々とツッコミどころが多いが、最大のものは、暗殺手段に、なぜキスで目が覚めるリンゴを選んだか、というものだ。

女王が白雪姫の元を訪れ、言葉巧みに家宅に侵入してリンゴを食べさせる様は、凄腕の訪問販売業者を思わせる。

リンゴを食べさせた後、女王がどうなったのか、今作でははっきり描かれる。
原作とは異なるので、興味があれば、観てみるのもいいと思う。

今作は、後のシンデレラや眠れる森の美女同様、動物アニメでもある。
その登場動物数は、過剰なほどである。
私は、数が多すぎて、びっくりした。

くだらないことをつらつら書いたが、現在今作を最大限楽しむなら、1937年に作られたアニメ、という事実を胸に刻んで、アニメーション表現の豊かさや美しさに素直に驚嘆すべきであろう。
80年以上経っても人々の心を魅了する魔法が、たしかに今作のアニメーションには存在するのだ。

[テーマ考]
白雪姫のテーマとは何か。
原作では、女王が執拗に何度も白雪姫の暗殺を試みるも失敗する、という点が本筋である。
そうすると、美醜に伴う嫉妬の恐ろしさと罪深さの寓話、と考えるのが素直だろうか。

今作には、そういった原作準拠のメインテーマとは別に、今作ならではのサブテーマと言うべきものが仕込まれているように思う。
それは、奉仕の精神こそが自らを救う、情けは人のためならず、ということだ。

今作では、白雪姫の家事スキルが冒頭よりクローズアップされており、そのスキルと彼女の面倒見の良さが、七人の小人たちの信頼を勝ち得るための重要な要素になっている。
時間の掛け方と、アニメーションの手間暇の掛け方からして、白雪姫と小人たちの交流パートが今作の多くを占めるが、このサブテーマに照らすと理解しやすい。

今見ると、女性の家事を称揚するのは、古臭いジェンダーロール、というようにも思える。
最終的にリンゴを食べてしまう白雪姫のドジっ子っぷりは、女性蔑視だという批判もあり得るかもしれない。
とはいえ、1937年製作(80年以上前!!)という時代背景と先述のサブテーマを考えると、むしろ時代の先を行っていた作品のようにも思えてくる。

[まとめ]
ディズニー長編アニメーションの第1作にして、世界に魔法をかけた、伝統工芸品の如き名作。

時代ごとのディズニープリンセスの顔の変化に着目するのも面白い。
今作の白雪姫と、美女と野獣のベルやアラジンのジャスミン、あるいは最近のラプンツェルやアナ雪の姉妹では、かなり造形が異なっている。
これは、リアリティ重視から、表現重視への変化と捉えるべきか、単なるアニメーターの好みの変化の問題だろうか。