この街は腐り切ってるぜ
市長も署長もゴキブリと一緒に
ひっ捕えてやる!
ーという惹句を引っさげて、新岡勲による同名漫画を原作に、ダーティーハリーの日本版を作ろうと、スリーピースに角刈りの渡哲也扮するゴキブリ(暴力団)狩りを自認する人呼んでゴキブリ刑事が早くも第二弾として帰ってくる。
監督は前作に続き小谷承靖。
脚本も同じく剣持亘。
相変わらずドスの利いた低音ボイスの渡哲也がカッコ良すぎる。これで32歳かよ…渋すぎるだろ?!いまの役者では到底出せない渋味と重みを兼ね備えている。現在の感覚だと45歳くらいに見える。いまの人たちが幼く見えてしまうのは経験値の差なのか?いや角刈りをするかしないかの差なのか?
○路上
車で走っている渡哲也演じる鳴神涼。
すると、黒ずくめの女が道路を塞ぐ。
女
「すいません。車が故障したんですけど、ちょっと見てもらえませんか?お願いします」
心優しいゴキブリ刑事。
車から降りて故障車に近づく。
ボンネットを開けてエンジンルームに顔を突っ込んでいる男が鳴神を急襲。
キレッキレの渡哲也。当然の如く返り討ちに。
あぜ道のような泥の中へ蹴り飛ばされる男。
そこから這い上がるところをさらに喧嘩キックをお見舞いし、吹っ飛ばす鳴神。
『殺人の追憶』の土手っぺりでドロップキックするソン・ガンホのシーンと雰囲気似てる。
いいねぇ!この感じ!第二弾もキレッキレのゴキブリ刑事。
鳴神「冷てぇか?いま乾かしてやる」
と言って…
○車内
タバコを咥えながら運転している鳴神。
三角窓に手錠に括られた手が見える。
○路上
走る車の屋根に乗っけられた先程の男。右手だけフロントの三角窓に手錠で括られている。
車の屋根に乗せて走りながら濡れた服を乾かすという超斬新な方法がクソカッコイイ!
停めろよ!降ろせ!と喚く男。
構わず走り続ける鳴神。
普通の公道でこれをやれた素晴らしい時代。
いまはもう倫理だの、道交法だので絶対に出来やしない。こういうのが当たり前にできた時代を忘れないようにしなくては…こういうものを見て楽しんでいた土壌があったということを忘れてはならない。
男尊女卑、女性蔑視、パワハラにポイ捨てなど負の遺産もあるが、安全であるならば、こういう逸脱したことも許される世の中であってほしい。せめて映画の中くらいは。
くるりと開く車の三角窓も、ほぼ絶滅してしまったし…
○黒田組
十文字会黒田組
先ほど車の上で乾かされてた男が十文字の下っ端の池上。
○鳴神のアパート前
なぜだかみんな黒いマスクをしてる下校途中の小学生たち。
コロナ禍に見舞われた現在の子供たちや!
え?なにこれ?すげぇ不思議…いま現在の世の中かと思うほどタイムリー過ぎる描写に驚く。いま世界中の人間がマスクしてるからなぁ…まさかゴキブリ刑事が予見しているとは…
○鳴神のアパート
部屋へ入っていく鳴神。
このカッカッという足音は、誰がやり始めたのかなぁ…東映?昔の日本映画では、よく聞く足音なのだが、画のショットと人物の距離感と靴音が合ってない。不自然に靴音ばかりが粒立って目立ってしまっている。それが逆に画を安っぽくさせてしまう。もったない。
○鳴神の部屋
電球が切れて電気が点かない‥
案内してくれたロン毛の橋本刑事(沖雅也)をパシリに使う。
鳴神
「一番暗いやつでいい。20ワットだ」
橋本
「20ワット?あの…便所につけるやつですよ」
鳴神
「どうせ寝るだけのとこだ。それに身を潜めるには暗い方がいい。ゴキブリの習性だよ」
いや…ゴキブリって暴力団のことを指して使ってたんじゃないの?自分にも使い出したら、ちょっと意味違ってくるんじゃない?自分で言うなよ…おもしろいけど。
そこへ女が訪ねてくる。
女
「鳴神さんでしょうか?署で伺いましたら、こちらと聞いたもので…」
個人情報は?ゆるゆるか!刑事の住所なんか絶対に教えないだろ?車の屋根に人乗せて公道を走り回れる素晴らしい時代の当時であっても、さすがに教えないだろ?
警察署で待たせるとか、アポ取ってどこかで約束するとか…いきなり自宅は難しいんでねぇの?
○外
黒田組の親分の片腕を吹き飛ばした所為で、過剰捜査ということで一年半の刑務所暮らしをした峰岸徹演じる山岡。鳴神は知り合いの漁師に預ける。
先ほどの女は山岡の彼女。
彼女
「会いたいんです!どうしても教えていただけないのですか?……あたし…一年半も」
鳴神
「あんたが知ればゴキブリが付き纏う。もうしばらく待ってくれ山岡のためだ」
彼女
「わかったわ…会えるようになったら教えてね」
え?なんで急にタメ口?歳上にタメ口きくなよ!と韓国なら言われちゃうよ。日本でも昔は厳しかったけどね…最近はどうも緩くなってきた気がする。
しかし、この彼女…急にタメ口だから気持ち悪いんだけど…なんか鳴神に色仕掛けしてるようにも見える。なんでいきなり距離詰めたの?距離感おかしいよ。
そして、走って立ち去る彼女。
別に走らなくてもよかないか?
何に生き急いでらっしゃるの?
○海岸
凸凹した岩の上で釣りをしている父子。
なぜか滅茶苦茶離れているのに、用もなく近寄り話しかける鳴神。
いやぁ強引やろ…脚本。もう少しうまい方法ありそうだけど…
鳴神
「どうだ面白いか?」
男の子
「もちろんさ、だってお父さんのお手伝いしてるんだもん」
これ…は…。大人が考える子供像というか…こんな子供いないだろ…釣りで、お手伝いってどういうこと?晩メシのおかずってこと?
こんなモミアゲ上等な強面が、いきなり話し掛けてきたら、声も出ないだろ?うんと頷くだけの方がまだ良かった。演技も棒読みだしね。話させない方がいい。
お父さん
「この子にはもっとまともな魚釣りを教えてやりたいんですがねぇ」
ドジョウ?なんだがわからん生物を掌にのせるお父さん。
これだけだとよくわからない…
が、次のシーンで公害問題だということがわかる。
いや、わかるけどね、だからマスクだったんだろうけど…それなら、この釣りのシーンはなくても伝わる。
次のシーンで公害問題の話をするんだから、あっそれでマスクしてたのね!ってみんな分かるのに、それを付け足すかのように釣りのシーンを入れて…こんなのない方がよかったよ。
この話を促すためだけに、鳴神をわざわざ用もない堤防の先の方まで歩かせて…そういうの要らない。逆算して動きをつけられると理屈が通らないから困る。
ただ説明するためだけのシーンになってしまう。
女が訪ねて来るのもカットだし、この釣りのシーンも当然カット。
○料亭
市政審議会の会長をしてる弁護士の大山。
演じるのは河津清三郎。
大山
「いやぁ、こういう美味い魚もだんだん食べられなくなりましたなぁ」
志村(南原宏治)
「大山さん、私は東邦化学の…」
大山
「いやぁ失敬失敬。皮肉を言ったわけでは…この町の発展はあなた方企業のお陰と、市政審議会でも…」
こういう会食をしてるのだね菅の長男は…
志村
「実は、うちの公害対策研究員のことなんですかが…極秘のデータを社外に持ち出して内部告発」
大山
「極秘というと?」
志村
「大気汚染の実測値です。中部公害センターの発表値は、だいぶ手加減していただいておりますから」
大山
「騒ぎの好きな連中も、その数値を信じて落ち着いてきている」
志村
「何とかあれば事前に…」
大山
「そうですな…お互いのためだ。参考までに、その研究所員の名前は?」
志村
「香川っていうんですがね」
こんなやり取りが、令和のいまでも料亭で行われているかと思うと、笑えないし、ホントに吐き気がするね。
データや数値なんて誰もクソ真面目に検証しないから、政府発表を鵜呑みにしちゃうよね。「騒ぎの好きな連中も、その数値を信じて落ち着いてきている」これは今でもホントに言ってそう。二階や麻生あたり。
ゴキブリ刑事…この世にも欲しい。
○海岸
釣りのお父さんの死体。
刑事
「俺のヤマじゃねぇなこりゃ」
鳴神
「オレもそう言いてぇとこだが、シキがある。ホトケはお化けハゼを集めていた」
シキ?
お化けハゼ?
シキは何のことか分からないが…
お化けハゼは、1970年代に瀬戸内海のハゼに多発した疾病のこと。当時は公害による奇形と考えられていたが、現在では「X細胞病」という寄生虫が原因の疾患であることが分かっている。見た目がセンセーショナルなので、公害反対運動で盛んに喧伝されていたそうな…
○鳴神の部屋
布団に横になっている鳴神。
煙草を吸おうとするもショートホープは空。
仕方なく、コカコーラの缶をひっくり返して、缶の中のシケモクを楊枝を挿して取る。
この感じ…非常に懐かしい。
煙草を買いに行くのも億劫で…仕方なくやるよねシケモク…忘れてた感覚。しかもコーラは細長いタイプの缶。これも懐かしい。
○船上
目撃者の女が警官殺しの犯人を山上と断定。
裏を取りに山上に会いに来た鳴神。
そこへ橋本が目撃者の女を連れて現れる。女は山上を見て似てるけど違うと…
それじゃ一件落着だと、みんな船を降りる。
荷卸しが終えたら旨い肴で一杯やりましょうと山上。
すると、モーターボートが山上の船に近づきマシンガンを乱射。山上は撃たれて海へ落ちる。
そのまま逃げるモーターボート。
その光景を横目に見ていた鳴神とロン毛刑事橋本は近くのモーターボートに乗り込み追いかける。
先ほどは難なく山上に命中していたマシンガンが、鳴神のボートになった途端に一切当たらなくなる。こういうのはわざとらしいからやめてもらいたい。必要以上に撃つ必要なくないか?
向こうは捕まえたいんだし、そっちが撃たなければ撃たないと思うよ…無駄に撃つから白々しくなって萎えてしまう。
君のことが好きだ好きだ、と日がな一日中言ってる男みたいで価値が下がる。せっかくのマシンガンなのに。
ロン毛刑事橋本が撃たれた途端に、なぜだか立場が入れ替わる。急に追われる側になる鳴神。なぜ?何なの?なぜ犯人たちも追うのよ?!
すると橋本が、ボートに積んであったオイルを2缶海へ投げ入れる。と、その一斗缶を撃ち抜く鳴神。
一気に炎上する海だが、その火を突っ切ったとしても影響なさそう見えてしまうくらいショボくれた火。
その火を避けたら、岩に激突する犯人のボート。少し岩に乗り上げただけなのに、大爆発する。うん、しないだろ…それは。
○病室
ロン毛刑事橋本を見舞う鳴神。
手には山上のお骨を持っている。
ん?早ないか?もう葬儀まで済んだの?
○病院の前
タクシーから降りて来る山上の彼女。
鳴神の持つお骨を見て泣き崩れる。
いやいやいやいや…
お通夜は?告別式は?山上にも親族くらいいるだろう?葬式やるよね?そしたら、そこに彼女を呼んであげろよ!彼女が会いたがってんの知ってたよね?なんでそこで急に冷たくなるの?教えてあげたらええやん!もう死んじゃったわけだし、安全やん。ある意味で。
よぉわからん。
こういう映像的な嘘は…いただけない。
ラストはまた前作同様に畳み掛けるように一気に解決して終わる。
最後のニトログリセリンを持って心中を交換条件に書類を渡せというのも意味わからんな。
そのニトログリセリンを投げようとするのを反射した鏡で確認して撃つ鳴神。
いやもう、どうせ撃つのわかってんだから、そんな回りくどい駆け引きなんかせずに正面切って撃ってほしかった。
ラブホで女と絡む黒田にもそうしたじゃん。
なぜ志村もそうしなかったのか?
『WILD COP NO.2』
THE GOKIBURI
のタイトル
END
また終わりが潔い。