板チョコ

わたしを離さないでの板チョコのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
4.1
原作の言わんとすることや独特の静かさをかなりちゃんと汲み取っていて配役も自然で、原作物の映画の中ではかなり良いのではないでしょうか。
他の方の言うように、展開が急すぎたり、逆に一つ一つのシーンは間延びしすぎだったりする部分はあったと思います。
穏やかで美しい、抒情的な映像が好きです。(だから余計残酷なんだけども)

「約束のネバーランド」が同じ設定のようですが、あちらはジャンプ系バトル漫画なだけに、鬼=純然たる悪、倒さなきゃ、という構図が成り立っているぶんまだ救いがあるように感じられます。

本作では全員が「提供」から逃れることは物理的にも精神的にも不可能で、そのルールの中でいかに精一杯生きていくかに焦点が当てられているので静かな絶望しかないんだけど、その「限られた運命の中でいかに精一杯生きていくかが大事なんだ」という、人間の根本的な部分に触れる内容であると思います。
もっと言うと、自分の、目をそむけたくなるような運命を受け入れて毎日を生きていく事は、単純に悪と戦うよりも地味ではあるけれど難しく、尊いことなんだと思います。

今回数年ぶりに見てリアルだな、と思ったのは、主人公たちが20歳くらいまでは自分たちの運命にそこまで悩むこともなく、漠然とした不安は抱いているけれど関心は自分たちの今の生活に向いていて、最後が見えてきた終盤になってようやく各々自分の運命や死に対峙する点です。
まだ自分たちに時間の猶予があるうちは深く考えずに色んなものを無駄にしてしまう(時間とか、恋とか友情とか)し自分の最後についてはあえて考えないのは本当にそうだよな、と思いました。

最後に、主人公たちは他のクローンと違ってヘルシャムでの思い出を胸に抱いています。
(原作では他校出身の患者にせがまれてヘルシャムの話をするシーンもありましたね、)
生まれた時からの友達、いい感じの校舎、優しい先生と、普通の人間と本当に同じように丁寧に扱われて人並みに幸せに育った記憶を抱いているのが、提供の残酷さを際立たせているし本人たちも余計に辛いと思うのですが、たとえ後で奪われるものであっても、その幸せだった子供時代はかけがえのない宝物であって、後で余計辛くなるとしてもあった方がいいのかなぁ、とぼんやり考えました。
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