モノクロにあせた少年少女たちの、あの夏…。
自主製作映画ながら、当時のアカデミー外国語映画賞にノミネートされた本作。
戦争の影を引きずり都市をさまよう人びとの姿を、少年たちのひと夏の物語を通して絶妙に描きだした。
まるで泥の河の匂いまでもが画面を超えて観ている者にまで届きそうな映像の質感。
1981年にセットを駆使して撮影されたはずが、それをまったく感じさせない、自然な古ぼけ方がうまい。
そして両親役の田村高廣、藤田弓子さんのズッシリとした存在感がまた絶妙にハマっている。
なかでも田村高廣は、豪快に見えてどこか繊細な父・晋平を見事に演じきっており、あの戦争を生き抜いたひとりの父親として、中途半端なドキュメンタリーよりも遥かに雄弁に、その生きざまを物語っていた。
どうやら田村自身も本作のキャラクターの出来栄えを相当気に入っていたらしい。
素朴な存在感を見せた少年少女たちは、本作以降とくに芸能界で活躍することなかったといい、「普通の子どもたち」に戻っていったようだ。
そんな経緯もまた、本作を伝説たらしてめいるように思う。