このレビューはネタバレを含みます
本作のように、言葉にしづらい映画というのは名作のひとつの特徴かもしれないが
ストーリーは、戦後十年ほど経ったころ、子供たちのひと夏の出会いと別れを描いたものである
ただ、それだけである
川べりのうどん屋の息子 ”のぶお”
”きっちゃん”という名の少年
その姉の”ぎんこ”
彼らは、夏のうち何日か川岸に停泊している屋形船に母と住んでいる
父は船頭であったが亡くなっている
ふたつの子供の家庭環境は、酷く異なっていて、きっちゃんとぎんこ自身は自分の母親が何をして生計を立てているかまでは知らないように見受けられる
もしかしたら、ぎんこ自身は年齢的なもの、周囲の人間とのやりとりでわかるその聡明さから何となく察してはいるのかもしれない
いずれにせよ、面と向かって人には言えないこと
そういうことであるのは弁えていたといえるだろう
のぶおが、きっちゃんとぎんこと遊ぶときにはいつも、家庭環境やその育ちの違いが浮き彫りになる
着てる服、履いてる靴、住んでる家、遊び方、友達の有無、両親の状況、周囲の人間の言葉など
のぶおは気にしなかった
しかし、その違いをまざまざと見せつけられる出来事が訪れる
大人であれば、家庭にはいろんな事情がある、紋切り型とはいえ、そういう言葉による理解がある
子供には、まだ知らないことがたくさんあるが、それは上手く言葉にできないことにより心の処理が追いつかないということでもある
屋形船で、きっちゃんがのぶおに面白いものを見せてやると言い、蟹に火をつけて見せる場面があるが、父親の死というものがどこか影を落とした行動のようにも見てとれる
必死に父親の死を受け入れようと、自らの現前で何度も死を見つめようとしているようにすら私には映った
そして、のぶおは偶然にも、きっちゃんの母親が舟の上にある”離れ”で客と行っていたことを目にしてしまう
のぶおを襲ったものは容易には言葉にできないが
ただ言えるのは、もうここに来てはいけない、そういう思いだったろう
物心がつく、とはよく言われるが、まさに子供の世界は物と心の線引きがぼやけていて、とりわけ見たものが襲ってくるその衝撃はすさまじい
そういう時期に起こる作中の数々の出来事は、子供たちになかなか心で処理できない、もどかしさやもの悲しさを感じさせる
そうした機微が、子供たちの表情や佇まい、そしてその場に張りつめる空気感から伝わってくるのである