純

キツネとウサギの純のレビュー・感想・評価

キツネとウサギ(1973年製作の映画)
3.8
子ども向けとはいえ、100%可愛い画ではないことが逆に魅力的だと感じずにはいられないような作品だった。前半の2作品とは打って変わってザ・子ども向け!といった雰囲気はあるんだけど、はじめはあまりキャラクターを受け入れられないというか、不気味だと思ってしまう。でも、物語が進むにつれて、「可愛くないんだけど可愛いな」っていう、観たひとにしかわからない愛情が湧いてくる。チャーミングってまさにこのことだ。

物語としては、冬が終わり春が来て、氷の家に住んでいた意地悪なキツネは家が溶けてしまったため、樹皮でできたウサギの家を乗っ取ってしまう。さて、ウサギは無事家を取り返すことができるのか、という至極シンプルで分かりやすい話。

力のある動物の力じゃ解決できなくて、弱そうに見える動物が実は役に立ってくれたという、メッセージ性があるようで実は特に意図されているわけでもないような曖昧さが面白い(笑)具体的に言うと、オオカミやクマやウシといった強い動物でさえ尻尾を巻いて逃げ出すキツネの強さ半端じゃなくない?だとか、ニワトリくんはなぜこの強敵を、苦戦したとはいえ煙草スパスパ吸いながら負かせてしまうの?だとかいうツッコミをしたくなる面白みがあった。そこは明かされないのか!って思ってしまう(笑)

チャーミングってところを深堀すると、ウサギが涙を流す様子だったり、ニワトリが奮闘してるときの行動だったりがすごく可愛いんだよね。思わず微笑んじゃうような無邪気さ、無防備さがくすぐったい。強い動物の代表として出てくる3匹も、口だけなのにめちゃめちゃ可愛いし(笑)オオカミははじめウサギを食べる予定で近づいたのに、ウサギの状況を聞くともらい泣きしてしまう。クマは繊細なのか花の首飾りなんか作ってる。ウシは頼り甲斐がありそうですぐ逃げ出しちゃう意気地なし。もう!情けない!って思ってしまうところもあるんだけど、なんか憎めないキャラクターたちだった。ウサギも彼らには怒ることはなくて、ただ寂しい悲しいって泣いてしまう。もちろんキツネには怒ってるけど、自分ひとりじゃどうしようもできなくて、結局何もできずしゃがみこんでしまう始末。思わず「よしよし」って頭撫でたくなってしまうよね(笑)

びっくりしたのは、常に新しい画の魅せ方。なんて綺麗な紙芝居なのか。なんて無駄のない、効果的な動かし方や構図なのか。色彩もはっきりとしていて鮮やかだし、動きのバランスの良さが飛び抜けている。躍動感や感情の起伏を的確に表す自然な動きと、愛くるしさを感じさせる適度なぎこちなさがぶつかり合うことなく生きていた。

斬新なアイディアと、それを実現できる高い技術力があってこそ出来上がった素晴らしい作品だった。全く無駄のない作品なのに、他の作品が持っていない魅力をこれでもかと詰め込んだ贅沢なアニメーション作品なんだなと実感する。
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