こたつむり

殺人狂時代のこたつむりのレビュー・感想・評価

殺人狂時代(1967年製作の映画)
4.0
何このイカレポンチ!最高!

というわけで。
昭和42年のモノクロ映画なのですが、現代日本では描くことが出来ない“狂気”に満ち溢れた作品でした。いやぁ。これが昭和の香りですよね。生温い牧歌的な雰囲気ではなく、背後から切り捨てられるかのような緊張感。

物語の方向性としては。
謎の殺し屋組織に狙われる男の物語。
ナチスの残党も絡み、国際的な陰謀の匂いもしますが、主人公が鈍重だからか、どこか間の抜けた雰囲気で展開します。だから、サスペンスなのかコメディなのか…いまいち、物語の枠組みが見えません。

しかし、それが本作の魅力なのです。
何が飛び出るのか判らない…からこそ、グイグイと惹き込まれ、気付けば鼻息荒くなっているのですな。当時は奇抜過ぎる演出のために低い評価だったそうですが、逆に言えば、21世紀の今でも最先端。ぶっ飛んでいる作品なのです。

そのイカレ具合は序盤から顕著でした。
白を基調とした隔離病棟に響く笑い声。
モノクロ映画ならではの怜悧な映像。
足元がグニャリと曲がり、頭のネジが弛んでしまいそうな世界観。いやはや、なかなか凄い場面から始まるものです。

また、個性的な登場人物も魅力のひとつ。
仲代達矢さん演じる胡乱な主人公も。
団令子さん演じる魅惑的なヒロインも。
天本英世さん演じる殺し屋の元締めも。
邦画独特の過剰な演出はあるものの、一風変わった世界観を構築している大切なピース。その他にも脇を固める人たちだって、同じようにイカレていますからね。隅々まで見逃せませんよ。

そして、本作の真骨頂は場面転換の妙。
岡本喜八監督の手腕が光る部分です。
また、監督が“本物”を描こうとしている心意気も感服の極み。本気のドイツ語と、軍靴の響きと、歴史に名を残したチョビヒゲのコラボレーションは必見です。

まあ、そんなわけで。
事前情報を最小限にして観賞しましたが、まさか、まさかの掘り出し物。カルト映画に分類されてしまうくらいに人を選ぶ作品ですが、ピタリと嵌れば爪先が伸びてしまうほどの悦楽。まさしく99分の上映時間は至福が続く瞬間でした。最高!
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