救済P

ドラえもん のび太とふしぎ風使いの救済Pのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

ドラ映画24作目。のぶ代ドラ映画の中で唯一泣いた。

セル画からデジタル彩色に全面移行し、かつ総作画監督が渡部歩へ変更されたことで非常に特徴的な画をしている。
特に、明と暗のはっきりとしたシリアスな絵や、キャラクターの中割の表情がこれまでのドラ映画とは決定的に異なる。中でもしずかちゃんは表情変化の最中の中割でこれまでに見せたことの無いような顔をする。

危機感を煽る音楽の出来が過去一と言って申し分ない。スネ夫の洗脳シーンや最後のフー子の決死の戦闘シーンは非常に緊張感のある劇伴がシーンのシリアスな空気づくりに大きく貢献している。

未開の村から醸し出されるノスタルジックな世界観は2000年代の不穏でシリアスな展開を見せるドラ映画の空気感と絶妙に噛み合っている。○○ジンに統一されたゲストキャラクターの名前や精緻なディティールで書き込まれた小道具、遊戯、船、秘儀、民謡や祭りの描写など、素朴な世界観でありながら独自の文明が築かれ、キャラクターが人知れず生活していたことに説得力を持たせている。

ゲストキャラクターであるフー子に親しみやすい現代のぬいぐるみの側をあてがうことで小さきものの懸命な努力と決死の覚悟に感情移入しやすい下地ができあがっていた。具体的な言葉を持たないが、素直で、活発で、仲間想いなフー子は今作限りのキャラクターではあるが忘れることのできない存在感を見せていた。そのため、光が差し、その中で静かに物言わなくなったフー子のぬいぐるみを抱きかかえ一人涙するのび太のシーンは象徴的で、神秘的で、どこか神聖すら感じた。泣いた。

後半は駆け足な話運びとなり、フー子との別れによる余韻があまり感じられなかったのは少し残念だった。序盤中盤でフー子との絆をこれでもかと描いているので、一番の見せ場である別れの後に訪れる余韻にも気を配ってほしかった。また、現代の未開の地がテーマでありながら動物や技術があまりにも幻想的で無理がある。EDで子供が描いたイラストを垂れ流すのは描いた当人以外誰も幸せにならないのでやめてほしい。

当時は映画に先駆けてしずかちゃんが舞台までロケハンに向かうという体で特番が放送されていた。このころのドラ映画の上映といったらまさしく祭りで、テレビアニメはSP枠を設けて映画の盛り上がりを助けていた。当時の空気感を知らない新しいドラえもんファンのためにも特番も含め配信してほしい。
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