Mikiyoshi1986

麦の穂をゆらす風のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

麦の穂をゆらす風(2006年製作の映画)
4.5
いよいよ今週末、ケン・ローチ監督が昨年度のカンヌ国際映画祭にて見事2度目のパルムドールを受賞した作品「わたしは、ダニエル・ブレイク」が日本で公開されます。

社会派的アプローチから、ブリテン諸島の歴史や内状を極めて冷徹な視点で描き続けてきたローチ監督。
本作はそんな彼がアイルランド独立戦争、そしてその後のアイルランド内戦の実態を生々しく綴り、2006年のカンヌ国際映画祭において初のパルムドールに輝いた栄誉ある作品です。

第一次世界大戦後のイギリスが、まだ世界一の列強国として君臨していた時代。
イギリス併合の制圧に苦しめられていたアイルランドの人々の闘争を描き、志を共にした二人の兄弟が次第に袂を別つに至る悲劇を端的に伝えます。

祖国を愛するが故、暴力には暴力で抵抗せざるを得なかった若者たちへ捧ぐ、この哀しき追憶。
そしてナチの迫害と何ら変わりのない英軍の愚行。

全体にアイルランドのシンボルカラーである緑を配し、当時の理不尽な暴力にまみれた凄惨さを一層際立たせているようにも思えます。

舞台は1920年頃ですが、
実際にアイルランドがイギリスから完全な独立を果たすことが出来たのは、それからずっと後の1949年のこと。
血生臭い歴史と共に映し出されるのは常に弱き立場にある人々の変わりない嘆きと怒り、そしてこの上ない哀しみ…。

そんなイギリスは(もちろん民主主義的な)国民選挙により去年EU離脱が表明されましたが、
ここにきて再びスコットランド独立の住民投票が不可避になりつつある現在。
かつての栄華を極めたグレート・ブリテンはこれから何処へ向かうのでしょうか。
Mikiyoshi1986

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