Kamiyo

東京暮色のKamiyoのレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
3.8
1957年”東京暮色"監督 小津安二郎
脚本 野田高梧 小津安二郎

最初から、孝子(原節子)は愛想がないし、
すごく可愛い明子(有馬稲子)は常にぶすっとしてる。

光と影の美しい映像。
古き日本の風情に、ほんわか、ほのぼの、
冒頭の熱燗でこちらも心温まると思ったら…
訳アリ家族の話でした。
夕霧に曇る都会のビルの手前に線路が位置しており、
そこを貨物列車が通り過ぎます(列車が通り過ぎたあとには、ビルの壁面に渋谷全線座という名画座の看板が見えることから、そこが渋谷の街であったことがわかります)。カメラが切り替わると、路地を歩く男が映り
その男が一軒の飲み屋に入ってゆきます。
杉山周吉(笠智衆)銀行の支店勤めの男が
勤め帰りに行きつけのおでん屋に寄ったところです。

東京の銀行で監査役の地位にある杉山周吉(笠智衆)は
独り身で二人の娘を育てる。
長女の孝子(原節子)は大学教授の沼田と結婚する。
だが沼田は感情の起伏が激しく性格に難があり、それに耐えきれない孝子は、二歳になる女児と一緒に逃げ出すようにして周吉のもとに身を寄せる。
次女の明子(有馬稲子)は奔放な性格で、英文速記の学校に通ううちに木村憲二という学生といい仲になり身ごもってしまう。木村憲二はうろたえて逃げ腰であり、明子はその彼を必死に追いかける。
高橋貞二の《あの節回し》も
ふざけ具合が嫌だったなぁ。

山田五十鈴が小津安二郎の映画への唯一の作品

次女の明子がまだ物心つく前に、周吉の部下と
駆け落ちして、娘たちを捨ててしまう母親喜久子
(山田五十鈴)が登場し、妹明子の心は、
父や姉孝子の思いやりに包まれるどころか
どんどん自暴自棄に陥り闇へ転がっていきます。
母親喜久子との再会も、次女明子が
「本当に私はお父さんの娘なの?」と嘆く始末です。
感動の母娘の再会どころか恨み節の連発であります。

女性の貞操観念が揺らぐと
不幸が連鎖するとでも言うのでしょうか…。
ロールモデルがいない娘達に
どう良妻賢母になれと言うのか。

片親であったとはいえ、温かい家庭に育っている
はずの妹明子がなぜ闇に落ちたのか、というよりは、
悪いほうへ転っている妹明子に、作品の中で
誰も手を差し伸べるシーンがない
妹明子は、結局誰にも相談せず、自棄酒を呑んで
ひょんな事から恋人に出くわし、怒りを爆発させ
電車に飛び込んで事故にあって(自殺?)
亡くなってしまう。
なんで私に相談してくれなかったの!うっぅ・・(涙)
と、亡くなった本当の原因を知ったら、姉孝子(原節子)は叫んでいたことでしょう。
それすらも知らないで終わってしまうわけですが。。

父娘ではなく、母娘といった親子の愛情をテーマにした、
作品だな、と感じながら、メモしていたら、
偶然にも、こんな台詞にぶつかった。
「親子の愛情なんてものも、考えてみりゃあ、
一番、プリミティブな動物本能でしょうね」
小津監督らしい独特の英単語が入った台詞。(笑)
ふだん、そんな会話をしないだろうと思いながら、
やっぱり気になって、選んでしまった。
「プリミティブ」とは「原始的なさま。また、素朴なさま」
「自然のままで、文明化されていないさま。原始的」
なるほど「親子の愛情は、一番素朴な動物本能」と
いうこと、
好きだ、嫌いだ、という感情ではなく、理屈抜きに、
親は子どもを命がけで守る本能だということだろう。
と考えると、現代の親子関係は「プリミティブ」ではなく、「複雑」ということか・・。
「複雑」って、英語は「コンプレックス」だったよなぁ。

トップクレジットこそ原節子さんということになっているけど、圧倒的に有馬稲子さんが素晴らしくて、この人を見るべき作品となっている。
最初から最後まで次女役の、有馬稲子には笑うシーンが
ありませんでした。
全編を通じて暗く思いつめたような表情の有馬稲子さんは、今の目で見てもすごく古さを感じさせず超美人と感じる。あんなきれいな人が、「最初っからやり直したい」と切々と語る姿は胸を打つねえ(´∇`)。
有馬は、この映画が初の小津映画。トークショーでは
「小津監督が巨匠だとは全く知らず、出演後に知ったので、次の『彼岸花』('58)の時はすごく緊張した」と
言っていた。

「東京物語」では無情という必然的な悲しみが
描かれるけどこの物語では明子が死ぬ必然性がない。
何故事故で死なせるという結末を用意したのかが釈然
としない。あまりに唐突過ぎ、いかにも悲劇を盛り上げるためだけのようなシナリオに思えてしまう。
しかも娘を喪ったわりにはその後の父の態度に
悲しみが伺えないのも小津監督らしくない。
嫁いでいく娘には格別な情を込めて描く名匠もその死というあまりに大きな悲しみを受け止め切れなかった
そんな気さえしてしまう。
Kamiyo

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