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東京暮色の3104のレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
4.0
暗い。アンハッピーエンドの小津作品はもちろん他にもあるが、今作はそういう“結果”から見る体だけでなくとにかくいろんな意味で全編を通して暗い。暗くそして重い。
話自体もどこかアンバランス。別にストーリーが破綻しているという訳ではなく、話としては「一区切り」で終わるのだがどうにも釈然とせぬあれこれが(観る者の前に)遺されてしまう。

しかしね、それも含めてこの作品の魅力なのだと思う。例えば代表作であるところの「紀子三部作」を経た後に、それらを否定するかのような世界観を構築、即ち自ら「小津像」を再構築するかのような大袈裟に言えば“異世界”。嫌いじゃない。いやむしろ好きなくらい。

メインビジュアルにも使われている、愁いの表情の有馬稲子嬢。最初はとにかくそれが気になって(≒惹かれて)観てみた。確かに美しい。そして終始その美しい~理由を鑑みると「美しくない」とも~愁いのまま演技を続ける。一度の笑顔も見せることなく(のちに様々な映画を観るうちに、彼女の「本領」はここでの沈んだ表情ではない事に気がつき、ますます有馬稲子という女優に惹かれるのはまた別の話)。最後は「美しくなく」泣きすがったりもするが。

暗い原節子。「脱・紀子」とでもいうような。山田五十鈴(限られた出番で難しめの役どころをきっちりこなす)との言葉少ない最初の対峙シーン、そして言葉なき最後の対峙シーンの“圧”は流石。そしてその後の涙も。
母と娘、そして子を宿した娘。家族を置いて去った母と、家に上げてもらえない母という「鏡」のような配置。何度となく映される2本の高架や踏切そばの目玉の看板などの不気味なモチーフが、物語全体をしっかり、ずっしりと奥へ、底へ引きずり込む作用を果たす。全編に流れる軽い調子の音楽も逆に暗さを後押しする。高橋貞二の麻雀シーンの軽やかさなどがわずかな救いか。

画的にも暗い(もっともそれにより効果を挙げている面はあるが)ので再生環境によっては観辛いシーンもいくつか。デジタル修復等の処理のちに観たいとも思うが、今作のなぜか嫌いになれない、むしろ惹かれてしまう「ダウナー&ダークネス」はこの暗い画と画質ゆえなのかもしれない。
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