むらむら

幽霊と未亡人のむらむらのレビュー・感想・評価

幽霊と未亡人(1947年製作の映画)
5.0
1947年の時点で制作されていた「事故物件もの」。

フォローしているカタパルさん、ミシンそばさんの評価が高かったので鑑賞しました。
決して「壇蜜の地球防衛未亡人 SMからSFへ」みたいな内容を期待した訳ではありません。

未亡人ルーシーが娘とお手伝いさんと引っ越してきた邸宅。そこには、前オーナーである船長が幽霊として住み着いていた。船長は自らの航海の物語をルーシーに語り、彼女はそれを出版社に持ち込む。出版社にはナンパ男がいて、ルーシーはシツコサに根負けして、ナンパ男と恋に落ちる。

ここで出てくる船長の幽霊は怖くも何ともなく、むしろダンディでカッコいい。この映画の設定である20世紀初頭よりさらに50年くらい前のメルヴィルの小説「白鯨」のエイハブ船長を思い出させるタイプ。

「危険を犯してこそ、幸福は手に入る」

荒れ狂う海を相手に生きてきた船長の放つ、痺れる台詞の数々。この船長が、最初っから最後までかっこよすぎて、俺ですら惚れそう。なのに、そんな船長を他所に、ナンパ男への恋慕を募らせるルーシー。

「あぁ、あなたといると、山頂から下を見ているようにクラクラするわ……」

と、ナンパ男に猛烈アタック、結婚を迫るルーシー。ルーシーは、「未亡人だからこそ、慎ましく生きるべき」という姑や小姑の意見に猛反発する現代的な性格の持ち主。たとえそれが軽薄なナンパ男だとしても、リアルな恋愛を求めてるんだよね。それに対して、半ば呆れつつも、船長が言う台詞が、またカッコいい。

「選択したのはキミだから、後悔しないように」
「良いときもある悪いときもあるが、最後に港につければ良いのだ」

船長、人間っつーか幽霊の器が大きすぎて、全世界のお父さんって感じ。このあと、航海の思い出を語る台詞があるんだけど、そこも「ブレードランナー」っぽくて最高。

このあとの展開はネタバレになるので伏せますが、映画は、長い航海を経た船が港に着いたように、とても美しいハッピーエンドで幕を閉じる。

ルーシーのフルネームはLucy Muir。Muirはゲール語(スコットランド)で海。船長にとって、ルーシーは海のように、自分の全てを捧げられる存在だったのかもね。

バーナード・ハーマン(「市民ケーン」、ヒッチコックの諸作など)の音楽も美しかった。ハーマンは自分の書いたスコアの中でも、この作品がベストだと語ってたとか。ハーマン、若い頃に「白鯨」を元にしたカンタータを書いてるので、もしかしてその経験を活かしたのかも……と思っちゃった。

出てくる度にキメキメの船長、現代的な鼻っ柱の強いルーシー、モノクロなのに美しい映像とハーマンの音楽。どれをとっても素敵な作品でした。

こんな事故物件だったら住んでみたい!
むらむら

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