むさじー

ゴースト・ドッグのむさじーのレビュー・感想・評価

ゴースト・ドッグ(1999年製作の映画)
3.8
<武士道を貫く殺し屋の不思議ノワール>

武士道を説いた「葉隠」を愛読し、伝書鳩を通信手段にする変わり者の殺し屋ゴースト・ドッグは、命の恩人でマフィアの幹部ルーイから、マフィアのボスの一人娘と恋仲になったファミリー内の男を殺すよう指令を受ける。娘には父の指令と悟られないよう男を消すという仕事だったが、男を仕留めたものの、部屋にはいないはずの娘がいて悟られてしまい、ゴースト・ドッグはマフィアから狙われる立場になって抗争へと発展していく。
何と言ってもキャラが盛り沢山。殺し屋の仕事は冷酷無比だが弱者である難民、子ども、動物には優しい。マフィアは高齢者ばかりで金欠のため家賃を滞納し、おまけにヒップホップを歌い踊り漫画アニメが大好き、と際立っている。本好き少女とのホノボノとしたやり取りもいいし、つぶらな瞳の野良犬、飼っている鳩まで演技しているのは見事だ。
映画全体の雰囲気はタランティーノ風だが、メルヴィルや鈴木清順へのオマージュも感じられる。でもやはりジャームッシュならではの斬新でシュールな世界観が支配していて、いい意味でのいい加減さ、自由奔放さが心地よい。脱力系ノワールの味わいか。
度々『羅生門』の「藪の中」が引き合いに出されるが、その意図は良く分からない。単に日本文化の意味合いかと思うが、もしかしたら、人によって見え方は違うのだから「(この映画も)勝手に解釈してくれ」ということかも知れない。軽妙と不穏が同居し、武士道とヒップホップがコラボする不思議な味わいの映画。
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