きゅうげん

復讐するは我にありのきゅうげんのレビュー・感想・評価

復讐するは我にあり(1979年製作の映画)
4.4
実際の連続殺人事件を素材とする背景や、映画化をめぐる製作トラブルなど、作品周辺のスキャンダラスさが目立つけど、内容のほうがもっともっともっと衝撃的な映画。

隠れキリシタンとしての漁村暮らしでも、別府での旅館でも浜松の安宿でも、閉じた世界でいびつに歪む愛憎劇が恐ろしいですね。
とくに信仰と信頼による父と妻の関係や、(無意識的/意識的に)盲目的な母、そして女将である実子や客などの逢瀬を窃視する宿の隠居など、今村監督らしい肉々しさで映る愛情はすべて近親的であり、「親殺しのできない人殺し」というオチに収束してゆきます。
「浜松で殺したのは三人だ、彼女のお腹にはきっと自分の子供がいた」という旨の終盤のセリフも意味深長ですね。

そんなアブノーマルさを支えるのが「ギョッ」とせざるを得ない演出の数々。
序盤の「殺人→オシッコで手洗い→柿の盗み食い」を同じ手でやる異常なシーンからはじまり、自分で殺しといて「病院連れて行くから」とか「缶切りはどこかな」とか言葉をかけたり、うなぎの養殖場の水を飲んだり、とにかく色々えげつない。

ところで、根岸季衣さんのキャラクターが温度感も距離感もちょうどいい感じで、まさしく映画のセーフティ的役割を果たしてくれてますね。
こんな理不尽な犯罪、関わらないに越した事ないんですが……。