真田ピロシキ

ICHIの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ICHI(2008年製作の映画)
3.7
座頭市と思っていたらるろうに剣心だった。主人公は綾瀬はるか演じるあの座頭市の娘かもと疑われる市だが、実際的な話の中心となるのは大沢たかお演じる藤平十馬。刀を抜けない正義漢。このお侍、太刀筋をヒラリとかわすのを見た時から「うん?」と思うことがあったので元々は強かったと判明しても不自然には感じない。それなら抜けない刀を持つより開き直って鈍器を振り回した方が良いのではと思うも、そこは現実離れしすぎない程度の凄腕で真剣相手に渡り合うのはやはり難しいのだろう。こういう時こそ逆刃刀があれば。緋村剣心も逆刃刀なしでは半分も実力を発揮できないのである。リアル。木刀や竹刀の小娘と小僧が殺意剥き出しのテロリストに勝つ矛盾からは目を背ける他ない。

十馬の抜けない刀は物理的なものではなく、トラウマによる精神的なもの。面子では勿論、自分の命が危機に迫っても抜けなかった刀を自分以外のために遂に抜く。その気高さは自分が生きている意味すら見出せなかった市の命と魂を救う。「目が見えなくても光は必要だった。今は先が見える」と市の台詞にあるように、本作は目に見えない部分を丁寧に描いている。そうした話に座頭市を選んだのは良い判断だったと思う。

しかし座頭市だから過小評価されてるようにも感じる。例え見たことがなかったとしても、勝新の座頭市を何となく雲の上の存在に感じてる人は少なくないだろうし、北野武版もそうだったように敢えてやるなら変化球を放るしかない。それだと厳しい視線が否応なく付きまとう。でも、これ良いですよ。殺陣は緩急つけてカメラワークも決まってて、ロケーションにも貧相さはない。役者も良い人揃い。特に綾瀬はるかはこの後に『八重の桜』や『精霊の守り人』に出たように凛とした役柄が様になる。シリーズ化出来れば踏みつけられ食い物にされるマイノリティの視点を前面に出した今の時代の座頭市を確立し得たと思う。本作は成功しなかったが、こういう異端と言える試みはし続けて行って欲しい。異端も続ければ正統になる。