きゅうげん

天国と地獄のきゅうげんのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.6
監督による民家破壊などエピソードが先行しがちなイメージですが、作品そのものもサスペンスフルでスリリングな大傑作エンタメ。

事件発生〜電話交渉に関わるドラマを描く権藤邸での密室劇の前半戦と、こだま号での身代金受け渡しの有名なシーンから個性的な刑事たちによる執念の捜査という後半戦とに大別できますが、こまかな各場面や全体的な流れなど、時間的な構成がカッチリしていてとっても観やすい。
そんな映画的計算性の高さは、撮影でも垣間見えます。
重厚な演技合戦となる長回し風なシーンでも、人物や事態を活写する印象深いカット割りでも、画面内のヒト・モノの位置や動きが完璧なうえ、モノクロであるがための光と影の機能的な照明のワザも素晴らしく、映像的な満足感がケタ違いです。
権藤邸の玄関近く(画面奥)の応接間で真っ暗に沈んでいる三船敏郎とか、繁華街の謎ダンスホール大衆食堂のカオスのなかでも一際目立つカウンター席の山崎努とか、映り方がカッコいい。

それに三船と仲代はもちろんのこと、お馴染みな東宝俳優さんたちや、いるだけの大御所の志村喬&藤田進に、藤原釜足・東野英治郎・沢村いき雄のおじいちゃんズなど、いつものキャストの安心感たるや。なんかもう常勝軍団のよう。
そして、だからこそ目を見張る当時新人の山崎努のバイタリティ。ラストシーンには言葉を失います。

至れり尽くせりな推理パートの機微も素晴らしいんですが、個人的に大好きなシーンは、犯人が花屋へ入った後「追え!」と言われるものの、一瞬だけ空気が死んで「オレら花屋に行けるような顔してないっすよ」って答えるしょーもなさ。
巨匠はギャグの落としどころも忘れてません。