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shane [シェイン] THE POGUES:堕ちた天使の詩のninjiroのレビュー・感想・評価

3.4
Whatever happened to that old song…


俺はアイルランド文化の生と死の狭間に立っている。

ピストルズ以外のパンクバンドはクソだ。
なぜ俺がピストルズに夢中になったかって?
ジョニー・ロットンがアイリッシュだからさ。

シェインはアイリッシュとしてのアイデンティティを死ぬまで決して手放すことはないだろう。

故郷と、愛する人と、酒。

長い放蕩は彼を廃人にまで追い込んだ。
現在は小康状態とはいえ、手元は常に揺れ、
眼は虚ろ、歯はボロボロ。
痛々しい姿だ。

対照的に小綺麗になったニック・ケイヴが語る。
「全てはシェインが決めることだ」

ついこの間まで深刻なジャンキーだったケイヴが、ピアノのある綺麗な白い壁の部屋でシェインについて語る。
シェインの才能は天賦の才だと。
彼のような詩を書くことは、決してできないと。

流れる"A Rainy Night In Soho"。
その詩は圧巻だ。
衒う事のない真っ新な唄。
赤ん坊のような無防備な感情。
上っ面などどこを剥いても見当たらない。
そんな言葉がフワッと美しいメロディに寸分違わず被さり、間違いなくボタンを掛けてゆく。

時が流れても全く古びない。

それはアイリッシュトラッドをベースとするポーグスというバンドの強みと言ってしまえば終わりかも知れない。

しかし、そのサウンドを選び、そこに誰にも書けない普遍的で美しい詩を置いていったシェイン、
これは詩人としての彼の凄みが改めて確認できるドキュメンタリーだ。

シェインも他のメンバーも何より大切に思っていた「ポーグス」という仲間の集合体が、望まれず解体して行く様は辛い。
そしてその最中に、フロントマンとしての責任から疑心暗鬼に陥り、大切な仲間にすら疎まれて責任を擦りつけられていると感じたり、些細なイザコザが手当のしようもない致命傷になっていく様を何も出来ずに眺めているのは、どんな気持ちだったろう。

結局、あの生命力に溢れ、輝いていた「ポーグス」は内部から崩壊した。
いや、もうとっくに消えていたのかも知れない。

そして長い時を経てポーグスは、またのろのろと動き出す。

この映像は、観る人に寄っては、特になんでもない唯のTVドキュメンタリーだろう。
アル中を隠そうともせず、もたらされる質問を全て煙に巻き、全てを捨て鉢に生きるようなシェインという人を疎むだけだろう。
しかし、この男からこんな音楽が生まれたという事は驚きに値するかも知れない。
そして、最後に彼が語る短い言葉は、彼の詩のように衒いのない、やっと我々が見つけ出せた、彼の本当の言葉だ。

もういいや。構わない。
ドライジンで乾杯しよう。
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