nt708

影武者のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

影武者(1980年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

私が敬愛する小説家・三島由紀夫が「歴史上で描かれなかったことが物語の発想の起点となりうる」ということを言っていたが、本作はまさにその代表だろう。武田の栄枯盛衰は状況証拠からして事実と言うにふさわしいが、彼に本作ほどの影武者がいたかどうかは事実とは言い切れないし、事実ではないと言い切ることもできない。ここに物語として解釈を広げる余地があり、ひとつの映画にすることができるほどの可能性を持っているのである。

カラーに転向してからの黒澤映画は正直苦手なのだが、それでも目を見張るような構図や演出が随所に見られるために、全てを嫌いと言えないのが悔しい。本作のファーストショットで影武者が何たるかを知らしめたり、ラストショットで『風林火山』は水のように流れる時間、あるいはそれに流される人間と異なり、不変なる大義名分であることを暗示したりと台詞なくして多くを語る黒澤の演出には感服するほかない。それゆえに、少々言葉数の多いシーンは観ていて退屈、黒澤映画に似合わないやり方だとも感じる。

制作から50年近くたった今でも観続けられているのには必ず理由がある。黒澤映画に限らず、その他の名画と呼ばれる作品には愛され続ける理由が必ずあるのだ。それが何なのか、、わかったら苦労しないのだが、時間をかけて観る目を養い、自分の作品作りに還元していけたらと思う。
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