さわだにわか

ATMのさわだにわかのネタバレレビュー・内容・結末

ATM(2012年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

あのオチが俺はすごく怖かったのだが、その前に確認しておきたいのは警察に連行された主人公がその後起訴されたのか、起訴されたとしたら監視カメラが物証になって有罪になったのか、などはオチでは一切描かれていないところで、これは殺人鬼の行動が「主人公を犯人に仕立て上げる」ことを目的としたものではないことを示唆する(そうなればしめたもの、ぐらいは思っているとしても)

オチで描かれるのはあくまで各地のATMの図面を見ながらカメラ角度や立地条件を仔細に検討していく殺人鬼の姿で、おそらくこれが初めての犯行ではないこいつにとっては主人公なんか憐れな被害者の一人でしかないし、少し想像力を飛躍させれば仮に主人公たちがうまく逃げ出せたりなんかしても、こいつとしては別に構わなかったんじゃないだろうか。つまり、主人公たちが狙われたのも逃げ出せなかったのも単なる偶然であり、殺人鬼にとってはそんなことはどうでもよかったというのがあのオチの意味するところで、この映画の恐怖の本質なのだ。

殺人鬼の正体は不明ながらその背景を仄めかすヒントは映画の中にあったように思う。なぜ殺人鬼はわざわざトランクルームの隠し部屋で計画を練っているのか、と思えば家ではできないからと考えるのが妥当ではないだろうか。殺人鬼は一人暮らしではないんである。
ここに、殺人鬼と間違われて憐れにも殺されてしまったATMの保安員が必ずしも展開に必要ではないにも関わらずわざわざ「家族持ち」と台詞で説明されていたこと、その居住地が勤務地(いくつかのATMを深夜に回っているんだろうと思うが)から遠く離れていたこと、エンドロールに挿入されるいくつかの画像の中にハイウェイの航空写真があったこと、ダミーとして椅子に着せられた防寒具の背に「セキュリティー」の文字があったこと、殺人鬼がジッと正面からATMを眺めるばかりでその背中は見せなかったことを照らし合わせてみると、推測以上のものにはならないとしても、殺人鬼の人物像が浮かび上がってくる。

彼はおそらく夜勤のATM保安員で、家族を持っていて、その仕事を続けるうちにふと、ここでなら人を殺しても気付かれないと頭に浮かんだ。いつしかそれは妄執となって彼は殺人衝動が抑えきれなくなった。
殺人鬼が何者かといえばシリアルキラーなんである。普通に仕事をしていて普通に家族を持っていて仕事のために普通に深夜に外に出かけていくシリアルキラーである。警察の到着時になぜ彼が慌てることがなかったかと言えば、見つかってもATM保安員だと説明すればよかったからなのだ。

どう映画を解釈するか、どう怖がるかは観る人の勝手だとは思うが、あのオチから殺人鬼のそんな姿を想像すると、俺はめちゃくちゃ怖くなってしまうのだ。

※余談ながら70年代から殺人を開始し2005年になって逮捕されたシリアルキラーにBTKの通称で知られるデニス・レイダーという人物がおり、幸せな家庭を築き近所でも評判のよかった彼は、勤務先のセキュリティ会社の仕事で各家庭に警報装置を設置しに行くついでに獲物を物色、犯行計画を練っていた。この映画の制作者がそのことを知っていたかどうかは分からないが、着想元の一つぐらいにはなったのではないかと思う。
BTKについてはデヴィッド・フィンチャーのシリアルキラーNetflixドラマ『マインドハンター』で詳しく描かれているので興味がある方はどうぞ。
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