レオピン

月の輝く夜にのレオピンのレビュー・感想・評価

月の輝く夜に(1987年製作の映画)
4.1
わしゃ混乱しとる

爺ちゃんよ心配すな みんなせやで

みんなお盛んね 老いも若きも
NYブルックリンのイタリア人街。夜景に懐かしのツインタワーが映える。形あるものは滅びるが月だけは姿を変えない。この星では何万年も満月の夜に男女の恋模様がくり広げられてきた。
月光に照らされた窓辺の夫にあなた25歳にみえるわよ なんて素敵な老夫婦か。
翌朝には昨夜はあなた虎だったわよと言われてどうだ今晩もと台無しの台詞で返す夫。

だがこんな会話も全くいやらしくない。神秘的な月に誘われるままにロレッタとロニーが再生していく物語がベースにあるからだ。
映画の中心は食卓。食事がみんなおいしそう。朝食にママが作るパンの真ん中に目玉焼きを落とすやつ、あれが食べたい。

イタリア系の会話はつい関西弁に変換して見てしまう。ロニーが惚れたのもロレッタが初対面にも関わらず変な同情心を見せずにはっきりきっぱりズケズケと誤りを指摘したからだ。

アンタそれは違うで それはアンタのおかしいとこやで
なにがやねん 俺のどこが間違ってんねん
次第に興奮して机を倒し この野郎 好きや〜! 待って待ってもう 好きにせえや〜!

みんな己の感情に素直で正直
ロレッタが髪を染める美容室(店名はシンデレラw)でも店員は、待ってましたで〜お客さん わたしゃこの日がくるのを〜 と異常なハリキリ具合を見せて彼女を変身させる。

タイトル場面でメトロポリタン劇場への搬送トラックとかあったがやっぱり中盤の「ラ・ボエーム」観劇がヤマ場。たった今観てきた劇の主人公が乗り移ったかのようなロニーの芝居がかった口吻にクラっときてしまうロレッタ。

愛は物事を良くはしない すべてを破壊するだけだ 心を打ちこわしすべてを台無しにするだけだ 俺たちは完璧になるためにここにいるんじゃない
完璧なのは雪の結晶や星たちだ 俺たちじゃない
俺たちは自分を破滅させ傷つけ 間違った人々を愛し死ぬためにここにいるんだ
さぁ一緒に二階へ行ってベッドに来てくれ

大事なのは熱だ 言葉の意味は分からんがとにかくどれだけ熱く語るかで勝負は決まる。
この熱量 そしてケイジとシェールの顔に見入ってしまった。二人ともくっきりとしたいい眉毛をしている。このあと眉毛冬の時代がやって来る 眉毛狩り眉毛恐慌 90年代は恐ろしいほそ眉時代に突入していくのだ。


パパのコズモにヴィンセント・ガーディニア 配管工の仕事で手広くやっているよう
ママのローズにオリンピア・デュカキス アカデミー助演女優賞
ワンこを従える爺ちゃんにフェオドール・シャリアピン・ジュニア
近所に住む叔父夫婦のレイモンドとリタにルイス・ガスとジュリー・ボバッソ

何組ものカップルが登場したが一番深淵だったのはママのローズ。
女子大生に毎回水をかけられフられ続けている大学教授ペリーと食事を共にし満月の下で手を組んで家路に着く。そこで、
私は私を知っています あなたを家に招くことはできません

この武道の達人のような勘所をおさえた振舞い。『カンフーハッスル』の最後でチャウ・シンチーに頭を下げる武道家みたいな気分になりましたよ。二人の間には十分に感情が芽生えていたが、それをそのままに引き取ってしまう。 

帰宅して偶然シチリアから帰ってきたジョニーにどうして男は浮気をするのかと訊く
>それは 死を恐れているからだと思います
それや! おおきに ありがとうな

やっぱおかんが最強だ 爺ちゃんですらドヤしつけてたもんな
それに引き換え年中あたふたしている男たちは情けない。でもそんなにワチャワチャ ドタバタの新喜劇にも見えない。それはレイモンドとリタの叔父夫婦 移民一世の爺ちゃん そして彼らの愛を支えてきたカトリックやコミュニティ。この辺が意外に重心が定まって見えた理由だったかも。

イヤな人間が一人もいない。まったくみんな愛すべき登場人物たちでした。
 
⇒シェールのwikiに、70代後半となった今でも変わらぬ美貌を保っている事から「核戦争の後に生き残るのはシェールとゴキブリだけだ」というジョークまで作られている、とヒドいことがさらっと書かれていたw 今やアメリカのシルク姉さんみたいな立ち位置なんか


⇒脚本:ジョン・パトリック・シャンリィ
⇒歌:ディーン・マーチン ザッツ・アモーレ

⇒食卓(キッチン)映画ベスト級
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