森野c5果実

千年女優の森野c5果実のレビュー・感想・評価

千年女優(2001年製作の映画)
5.0
満たされないから、価値がある。

人は、相手の豊かな人間性を理解したから恋に落ちるのではありません。
そうではなく、相手を理解していないからこそ恋に落ちるのです。
恋とは合理性を超えた何かであり、相手の中の分からない部分が謎となり、その謎が魅力を生み出します。
千代子は”鍵の君”の顔も朧げにしか見えない状況だけでも もう惹かれていました。
謎に包まれているからこそ却って彼への執着を強めていったのです。

人は愛する対象を理解しようとするものですが、
もし相手のことが分かってしまえば もうその相手に謎はなく、欲望の対象になり得ません。
千代子が”鍵の君”から鍵を受け取った夜(満月になる前夜)のように、
やり残しがあった方が味わい深いという、日本人的な未完の美学を感じさせます。

作品の内容としては”好きになってしまった男を追いかけてとにかく走る”というお話で、簡潔に説明できてしまうほど普遍的な内容でありながら こうも各所で絶賛されているのは、やはりアニメーションと音楽に因る賜物でしょう。

千代子の曖昧な記憶と、千代子が出演した映画のエピソードとの渾然一体の中で、心地よい酩酊感に耽ってみてはいかがでしょうか。
森野c5果実

森野c5果実