きらきら武士

千年女優のきらきら武士のレビュー・感想・評価

千年女優(2001年製作の映画)
3.5
Filmarks企画のリバイバル上映というものに初参加。映画も初見。

主人公のキャラ造形や虚実入り乱れたストーリー展開、そして何よりも平沢進の音楽という点で今監督の名作『パプリカ』(2006)のプロトタイプ的な印象を受けた。完成度はそこまで高いと思わなかったが、まあまあ楽しめた。

平沢進のファン層だろうか、2人3人連れの若い女性客が割とおられたような気がする。オジサン平沢進ファンがただそう思いたいだけかもしれないが。

今監督は本作から平沢進の音楽を先に作り、それから今監督が映画を作る手法を取ったとのこと。いわゆる曲先(きょくせん)。
音楽は隠しようがないまごう事なき平沢進節、シンセがファ〜。ファンは観て(聴いて)損は無し。ただ、映画との組み合わせではまだ洗練されていなくて、音楽使いすぎ、音量でかすぎ、と感じる所はあった。

ほか、気になった点。

入れ子構造とか時間シャッフル、虚実混ざった複雑多層な作りはかなり好みだけど、それぞれのシーン(過去日本映画へのオマージュ多数)と主人公の女優の内面の葛藤との結びつきがあまり無く、彼女の人間性とか魅力、女優魂といったものが最後まで伝わってこなかった。割とコミカルで表面的。いかにもアニメ内の架空の女優な感じがして、感情移入できる所があまり無かった。

だからラストも相当唐突で「は?」と受け止め兼ねたし、ちょっと取ってつけたようなオチにも感じられて失笑した。そのオチにするなら個人的にはもっと丁寧に、フリとして彼女の「実」の人間性を掘り下げて欲しかった。

嫌いだったところ。
導入をコミカルに自然にという意図だろうが、助手カメラマンのツッコミの多さがうるさかった。喜劇感、虚構感、軽薄さが強まっていた。エセ関西弁にもムズムズ・イライラさせられ、個人的好みから遠かった。

「千年女優」の「千年」も上手くハマっていない。回収してない。1000年女王みたいな壮大な話とは全然違う。

と、色々不満もあったが、全体的には凝った作りの話と映像を楽しんだ。
そして、本作品の経験が活かされて5年後に名作『パプリカ』として結実するのね、と理解した。

点数的には普段なら3.1ぐらいだが、平沢進の音楽や「曲先」手法を評価して加点し、3.5としたい。そんな気持ち。

以上、映画の話。


以下は余談メモ。
中洲大洋映画館などの話。

今回、中洲大洋で上映を観た。
多分20年以上、ぶり。前に何を観たか、全く思い出せない。中洲大洋は築80年、市内最古の独立系映画館。建物の老朽化によりこの2024年3月に取り壊しが決まっている。再建の予定は未定。昭和レトロな映画館との最後の別れを惜しんで、近隣3ヶ所の上映館からここにした。

中洲の一蘭ラーメン本店前のバス通りを挟んだ向かい側、中洲のど真ん中の大変目立つ立地だが、付近に駐車場が少なく、あっても高い、中洲に映画と組み合わせて行く用事があまり無いということもあり、映画ファンとしては正直ちょっと行きにくい映画館である。残念ながらこのご時世、映画館の商売的にはかなり難しい場所になってしまっていると思う。

ただ、昭和レトロな建物や、エレガントな内装が貴重で、ロビーの革張り椅子、展示、舞台ステージのある劇場、足を伸ばしても前のシートにぶつからないゆったりした間取りなど、他の映画館にはない独特の魅力がある。何とか残せないものか。築80年の建物。通ってもないのに勝手なことだが、やはり取り壊しされるのは惜しく寂しい気持ちになる。

鑑賞前、小腹が減ったので中洲の川向こう、川端商店街のラーメン屋「はかたや」に寄った。いまだにラーメン一杯290円を頑張って守り続けている古いお店だ。ここも何年振りだろうか。一時期この界隈に通っていた時にはよく食べていた。店は学食のような食券&セルフシステムに変わっていたが、味は変わらずあっさり薄めの豚骨で、地味に美味い。値段以上の味だ。今時のこだわり濃厚豚骨とか家系とか島系に比べるとそのシンプルさが際立つ。何よりも若くない世代の胃腸にとても優しい。

ラーメン屋でも映画館でも変わらずにずっとそこにあり続けるのには大変な苦労がいる。ファンとしてはまずは粛々と通い続けてお金を落とし続けることが大切だ。

人も街も映画も変わり続けるものだからこそ、変わらないものも大切にしたい。
千年とは言わないが。

#2024 #8
きらきら武士

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