アラサーちゃん

天国は待ってくれるのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

天国は待ってくれる(1943年製作の映画)
3.5
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〖天国は待ってくれる〗
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このタイトルが可愛くて好きだ。

これ、ルビッチの初カラー作品らしい。ちょっと皮肉でエッジが効いたジョークが溢れていて、だけどロマンスの美しさは損なわれない。ルビッチタッチが光り、ヒューマニズムを感じさせる1940年代ハリウッドコメディの傑作。

エルンスト・ルビッチ。
元々コメディアンとして活躍したドイツ人であり、ハリウッドにやってきてからはミュージカルとは異なるシネオペレッタを築き上げ、喜劇の天才として君臨、シャレたタッチで描き出す彼の演出は後のハリウッド映画に大きな爪痕を残した。
私の大好きなビリー・ワイルダーや、小津安二郎にも大きな影響を与えた偉大な映画監督。

天国と地獄の分かれ道にやってきた男が、地獄行きに違いないという自らの人生を、門番である閻魔大王に語り始める。そのなかで、男はいかに人々に愛されて生きてきたか、そして、大切な妻とどのように暮らしてきたかを思い返してゆく。やがて、天国行きか地獄行きかを決める閻魔大王が、彼に放ったのは…

どことなくフランク・キャプラの〖素晴らしき哉、人生!〗を感じさせるプロット。
キャプラも、ルビッチも、コメディの中に人生賛歌を歌うような傑作を作り続ける最高の監督なんだけれども、ルビッチといえば「ソフィスティケート・コメディ」と言われる、いわばドタバタコメディとは一線を引く洗練された洒落たコメディを作り上げる天才でした。

これもまた、〖素晴らしき哉、人生!〗のなかのジミー・ステュアートよろしく妻と二人三脚して人生を歩み、死に呼ばれた男の回想劇となるのだけど、そこにかかる主人公の生き方、セリフ、コメディアイテムがどれもこれも洒落ているのです。

あと、アメリカの良心とも言われるジミーと違うのは、ドン・アメチー演じる主人公は苦労を知らない放蕩息子でプレイボーイという点。キャプラスクで描かれるのは「正義は勝つ」「清く正直な人間は報われる」という人生の美訓、ボンクラ主人公なんてまず出てこない。
対するこのルビッチの作品は、そういう意味では皮肉めいているのである意味対照的とも言える。

そしてヒロイン演じるジーン・ティアニーの可愛いこと、〖ローラ殺人事件〗のローラ役の人です。お嬢さんの頃も殺人的に可愛いけれど、おばあちゃん役になっても可愛い。

なんとかヒロインを口説き落とそうとする本屋のシーンや、実家に帰ったヒロインを連れ帰るくだりは何度観ても楽しい。笑えるのだけど、ロマンチックでお洒落で観ていると癖になってしまう。