Mikiyoshi1986

ルートヴィヒ 完全復元版のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

ルートヴィヒ 完全復元版(1972年製作の映画)
4.2
若干18歳でバイエルン国王に即位し、廃位直後41歳で謎の変死を遂げたルートヴィヒ2世。
彼の在位22年間を全長4時間に渡って描き上げたヴィスコンティの最長伝記巨編!

芸術をこよなく愛したこの繊細な青年は音楽家ワーグナーのパトロンや大規模な城の建設など国庫を圧迫した浪費家「狂王」としてその数奇な運命を辿るわけですが、
ここでもやはりヴィスコンティは主人公を通して自分自身を見つめていたように感じます。

貴族の末裔として城で育ち、絢爛豪華なデカダンスを描くことで自ら体験した貴族文化の変移とその様式美を作品に投影してきたヴィスコンティ。
しかし時代の移り変わりと共に映画界では彼のような巨額かつ冗長な大作は作りづらくなり、
病に倒れ、資金繰りに苦労しながらも、納得のいく芸術を残すという執念はルートヴィヒの姿とも重なります。

本作は常に寒々しい曇天と共にどこか色彩を欠いたトーンが全体を占めており、
世間から閉ざされた空虚な城の中で生きるルートヴィヒは、まるで青白い月のように妖しく、ただ夜明け前の薄暗い空だけが美しくスクリーンを覆うのです。
こうした天気や空模様は物語と大変密接に関わっており、
雪、エリーザベト来訪時の淡い陽光、ベルク城移送時の一度きりの青空、そして豪雨など、彼の心情を巧みに表現しています。

ヴィスコンティの美学はコッポラ監督「ゴッドファーザー三部作」、キューブリック監督「バリーリンドン」、ベルトルッチ監督「ラストエンペラー」、スコセッシ監督「アビエイター」など多くの巨匠の大作に脈々と受け継がれており、それらは未だに我々の心を魅了して止まないのです。
Mikiyoshi1986

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