渡邉ホマレ

フェイズ IV/戦慄!昆虫パニックの渡邉ホマレのレビュー・感想・評価

3.8
映画史に残るタイトバックの巨匠にして、コーセーや紀文のロゴも手がけたグラフィックデザイナー、ソール・バスが、唯一監督作としてリリースしたのが本作。

…だけあって、タイトルバックからアーティスティック。1970年代当時としては画期的なマクロ撮影で、突如進化した蟻の生態を、まるで演じているかの様に演出する。

物語としては実に60年代〜70年代ハードSFらしく、宇宙の彼方で発生した異常によって進化した蟻が、人類を遥かに凌駕する知恵と、圧倒的な統率力でもって地球を蹂躙する事の起こりを、アリゾナの荒野という極めて限定された空間で描いている。

…しかしまあ、普通に観ればラストはポカンだろうし、「これがカルト映画か…」で済まされてしまうに違いない。本作を現在、特に何の解説も受けずに初見で「素晴らしい!オモチロイ!」と宣う人は、あまり信用しない方が良い。
たとえ解説を受けたとしても、オモチロがれるかどうかは…どうだろう。試みよう。

邦題のせいでどうしても蟻の脅威を描いた様に思えてしまうのは仕方のない事だ。何しろ「戦慄!昆虫パニック」だからね…。

しかし本作を何とか楽しむためには、蟻を退治しようとする人間たちの側ではなく、蟻の側に身を置いてみる事だ。

進化によって知恵を得た彼らは、現在地球を支配する巨人たちに戦いを挑むのだ。

人間には不可能なほどに一糸乱れぬ統率の取れた、小さな小さな勇者達。
そこで注目すべきなのが、例のマクロ撮影だ。
人間に対抗するという大義のためならば、彼らは個としての犠牲を厭わず戦い抜く。
その様をよ〜く観察してみれば、彼らの一挙手一投足あと触手にグッとくる。
白眉は中盤。毒薬の結晶を、命懸けで蟻から蟻へ女王蟻のもとへと運ぶシーンは、さながら『ローグ・ワン』のクライマックス。

また、1968年公開のキューブリック作『2001年宇宙の旅』との類似点も沢山ある。
冒頭の惑星。
モノリスの様に聳え立つ蟻塚。
進化による次世代の覇権争い。
HAL9000はボーマン船長に敗れたが、果たして蟻はどうだったか。
蟻の立場に立ってみれば、まさしく種の頂に至るまでの栄光の軌跡…と、捉えられなくもないではないか。

万人にオススメするような映画ではないけれども、万人が思いも寄らない手法で拵えられたハードSF…という意味で「いやあ…ボクが最も影響を受けた映画は…2001年宇宙の旅なんだよねぇ」という貴方は是非本作もご覧いただきたい。