きんゐかうし卿

人間蟲のきんゐかうし卿のネタバレレビュー・内容・結末

人間蟲(2004年製作の映画)
1.3

このレビューはネタバレを含みます

 



『ニッチ層に向けた作風』

自宅にて鑑賞。カナダ製の日本劇場未公開作、原題"Shelf Life(ソフト版は"Subhuman")"。ヘロデ王の法や資本主義から支配層、哲学から宗教論、そして何より禅問答を思わせる死生観等、長々と卓越した見解を論ずる割に描かれるシチュエーションは極めてピンスポットで転換も少なく、まるで舞台劇の様。対照的に必然性や是非を問う事を欠いた様な性急過ぎるゴア描写は直接的で稚拙故、そのアンバランスさが際立った。殻に閉じ籠る余り自論に固執し酔い痴れる独り善がりなヒロイズムやラジカルでチープな表現を好む様なニッチ層にしか甘受されないのでは。25/100点。

・邦題にある「蟲」や冒頭のダイアログ内の「擬態」と云う語から『ミミック』シリーズ('97・'01・'03)の様な物語かと思ったが、登場するのは『ヒドゥン』シリーズ('87・'93)に代表される「寄生」するモノの方が近い(ただ詳しい描写や言及が無い為、詳細は不明)。更に軸となるのは、寄生するモノではなく、主人公曰く“吸血鬼”みたいなののハンターや狩られるモノ達や組織であり、凡そ邦題は相応しくない。

・真意を探るミスリードは全篇を貫く柱の一つであるが、抽象的で概念的な科白でお茶を濁し、物語の外側や背景は想像に任せる深意をはかりかねる不親切な作りで、真相はどうであれ、長大な誇大妄想に附き合わされた気分になる。ラスト近く引導を渡す発言内で、ドラッグやアルコールで心のコントロールを促すが、発言者自体が重度の依存症である。果たしてそんな状態で正しい判断が出来るのか首を傾げたくなり、無慈悲にバサバサと殺戮を続けるのは単なるジャンキーなシリアルキラーにしか思えなかった。予算の関係か、切株系のゴア描写が多いのも気に掛かるが、CGIを用いドラッグ注射時の様子を丁寧に描写するのも特に意味がある訳でもなく、作り手の拘りが垣間見え、他のシーンを見渡しても全篇のバランスを大きく損ねている。他にも表層的に悪ぶった細かなディティールに嫌悪感を憶えた。

・冒頭のタバコを投げつける件りは何だったのか、単に殴られたいだけだったのだろうか。新人を鍛えてると云いつつ、一時間で戻ると短時間で何度もバーへ足を運ぶ行動原理も判らない。ドラッグの注射痕をタトゥーで隠せとアドバイスした左腕に「海人」と入ったW.マクドナルド演じる“マーティン”、彼をどう見るかで本作の評価が分かれると思われる。

・ラストのスタッフロールの末尾に"A true master"として黒澤明への献辞があるが、B.マクラフリンの役名が“ベン”である事から『スター・ウォーズ』シリーズのオリジナル・トリロジー('77・'80・'83)、プリクエル・トリロジー('15・'17・'19)辺りを想起したのは考え過ぎかもしれない。尚、この“ベン”宅のマンションにピザ宅配人として、監督・脚本・(共同)製作・(共同)製作総指揮等を兼任したM.タートが後ろ姿で出演している。

・鑑賞日:2019年2月19日(火)