きんゐかうし卿

葛城事件のきんゐかうし卿のネタバレレビュー・内容・結末

葛城事件(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

 



『眼を背けられないリアリティさ』


自宅(CS放送)にて鑑賞。実在の附属池田小事件加害者一家がモデルと云われ、自己中心的で自らの勝手な理想や幻想を、高圧的に他者へ強いる男の末路を描く。元凶となる悪者を決め附けるのは容易だが、不遇とは呼べない恵まれた過去が一家には存在し、家族四人各々に環境を好転させるチャンスがあった筈である。流される儘が故にそれが叶わなず、それぞれが心に闇を抱く結果を導いてしまう。この家族の言動には、大なり小なり誰しもが思い当たる節や重なる部分があるのではなかろうか。その意味で決して他人事で済まされない重みと凄みが本作にはある。70/100点。

・自宅の落書きを消すファーストシーン、その佇まいや書き附けられた凄まじい文言は、'98年7月25日に発生した和歌山毒物カレー事件の報道映像を彷彿させる。オーディションで選ばれたと云う若葉竜也演じる“葛城稔”の犯行動機は、'08年3月19日・23日発生の土浦連続殺傷事件で逮捕された犯人の自供内容に似ている。他にも身勝手な発言や振る舞いは、'99年9月8日発生の池袋通り魔殺人事件、'08年6月8日発生の秋葉原通り魔事件の犯人を想起させる箇所もある。途中、現金や缶コーヒーは甘目、お菓子は塩っぱい目と我儘な差し入れを強請る中、登場するワッフルの差し入れと云うエピソードは、篠田博之著『ドキュメント死刑囚』に記された'88~'89年発生の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件犯人との遣り取りを思わせる。本作が公開された'16年6月18日の約一箇月後である'16年7月26日未明に相模原障害者施設殺傷事件が発生した。

・一般に周囲を巻き込む程の完璧主義者や理想主義者は、理解者を得るのが難しく孤立しがちであるが、その事が全篇を通し淡々とした語り口や構成が地味乍ら伝わった。

・プリズン・グルーピーと云われる恋愛傾向を持つ人が世の中には少なからず存在し、本作では田中麗奈演じる“星野順子”がこれに相当すると思われる。作中における彼女の存在意義や心の機微が丁寧に扱われており、その言動に同情する迄は至らずとも、違和感は憶えなかった。束縛の余り、次第に対人恐怖症に陥る“葛城保”の控え目乍ら魅力的な新井浩文の演技も記憶に残る。そして何より“葛城清”の三浦友和の存在感と演技が、本作に大きな説得力を与えている。血を分けた家族の破滅を尻目に、現実から目を背け、開き直った挙句、自暴自棄となる腹立たしくも物哀しい悲哀が込められた鬼気迫る熱演は忘れ難い。『アウトレイジ('10)』、『アウトレイジ ビヨンド('12)』での汚れ役も記憶に新しいが、本作が誇れるキャリアの一部となったであろう。

・鑑賞日:2019年1月9日(水)