きんゐかうし卿

殺人者の記憶法のきんゐかうし卿のネタバレレビュー・内容・結末

殺人者の記憶法(2017年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

 



『全ては霞んだ記憶の先に』


自宅(CS放送)にて鑑賞。アルツハイマーに陥った嘗ての連続殺人犯の慚愧と葛藤を描くミステリー。公開時、後を追う様に(八割方同じだが、結末等が違う)ディレクターズカット版と呼ばれる『殺人者の記憶法:新しい記憶('17、以降「後作」と表記)』が公開されたが、そちらとの重複を恐れずレビューする。どうしても両作を比較する事になってしまう上、いつにも増してネタバレ寄りになる事を予めお断りしておく。オープニングが繰り返されるラストは後作と同じ構成だが、続く描写が異なる。この先も五里霧中を彷徨い続ける事を示唆した幕引きの領解次第で評価が分かれる。65/100点。

・濁った色調の寒々しいロケーションは、登場人物達の心象風景の象徴で本作の雰囲気やテイストを決定附けている。中でも雪に覆われた竹林が印象深く枯淡の趣を残した。

・そもそも記憶障害者が劇薬を扱う獣医を営む設定に無理があり、他にも細かな破綻や綻びは全篇に及ぶ。キム・ナムギル演じる“ミン・テジュ”の扱いも微妙で全篇に亘る中途半端な印象を際立たせる。ただそれらを圧倒する迫力があり、最後迄牽引する力を持っている。

・本作の描写は、ソル・ギョング演じる“キム・ビョンス”の見聞きしたモノ、或いは想い込みや妄想等のみで構成されており、それ故、やや難解で混乱する物語となっている。鑑賞後に何が起こったかを整理・構成し直す必要があり、更なる混迷を示すラストも悲哀と共に丸投げ感も残ってしまう。

・後作と本作では、日本におけるソフト版のパッケージやポスター等、販促用画像が異なり、二作の差異を象徴的に表している。受け取るニュアンスも微妙に異なるよう計算されており、細部に亙り手が加えられているが、本作の方が約十分程度短くなっている。後作とは“キム・ウニ”役のキム・ソリョンとソル・ギョング演じる“キム・ビョンス”との父娘関係性を示す遣り取りや来るべき対決の時に備えての腕立て伏せのシーンがあり、レントゲン写真が誰の物だったのか、そもそもの追突事故は誰が起こしたものだったのか等が後作と異なっている。更に後作からは、“アン・ビョンマン”所長のオ・ダルスと警察学校の学生が過去の連続殺人を訊く為に訪問するシーンやキム・ナムギルの“ミン・テジュ”の凶暴性を象徴する女を追い詰めた後のトイレのシーン等が省かれている。 

・キム・ナムギルの“ミン・テジュ”とキム・ソリョンの“キム・ウニ”が劇場で観ていたのは『グッバイ・シングル('16、原題"굿바이 싱글"・英題"Familyhood")』である。

・左頬がひきつると怖ろしくなる“キム・ビョンス”を演じるソル・ギョングはどことなく明石家さんまを彷彿させる風貌だったが、圧巻の説得力を持った悲哀を込めた演技で、事故のシーンもスタントを使わず自ら演じたらしい。若かりし日と侘しく少々草臥れた現在を、10kgの体重増減にて演じ分けたと云う。逆に“ミン・テジュ”のキム・ナムギルは妖しい雰囲気を増す為、14kg体重を増やして臨んだ。

・鑑賞日:2019年10月8日(火)