きんゐかうし卿

サバービコン 仮面を被った街のきんゐかうし卿のネタバレレビュー・内容・結末

2.5

このレビューはネタバレを含みます

 




『ポップで醜くって度し難い』


自宅にて鑑賞。新興地を舞台にドロドロした人間模様が渦巻くクライム・コメディ。洒落たオープニングタイトル。往年の米国製ソープオペラを髣髴するポップで明るい色調で統一された画面とBGMだが、内容はかなりシニカル。序盤、賊に入られた家の屋外では、越して来た隣人(黒人)をじっと見守る住人達。胸糞が悪い展開が延々と続く。O.アイザックの“バド・クーパー”が登場する中盤以降、漸く興味が出て来たが、それ迄が退屈で何度か挫折しそうになった。かなり取っ散らかった儘、ラスト迄突っ走るが、最後迄ノり切れなかった。50/100点。

・気味が悪いと云うよりも、生理的に嫌悪感を憶える世界観が構築されており、物語を動かすのは、上辺ばかり取り繕う腹黒く醜い内面の連中ばかり。街ぐるみのカタストロフィや地域丸ごとのディザスター等、大規模な破滅腐朽を期待したが、極めて小規模な核家族のみでの展開な上、全てが中途半端に集結し、余り感心出来無い。但し、ゴア描写はほぼ無く、グロテスクなストーリーながら、画面や雰囲気に合致したマイルドな仕上がりとなっている。ラストのN.ジュープの“ニッキー・ロッジ”とT.エスピノサの“アンディ・マイヤーズ”が塀越しに行うキャッチボールが、唯一と云って良い微かな希望を感じさせる。

・冒頭のナレーション要約──“心躍る夢が詰まった街 サバービコン”。1947年、数軒の小さな家から繁栄が約束された街として設立され、ほんの12年でグングン成長し、大都市並みに便利な環境ながら騒音や渋滞とは無縁である。米国全土から来た住民は六万人に迫る勢いで、町営の学校、消防署、警察署、ショッピングモール、設備の整った病院、街自慢の聖歌隊迄、存在する。

・'86年に完成していたと云うコーエン兄弟の脚本を基に『オー・ブラザー!('00)』、『ディボース・ショウ('03)』、『バーン・アフター・リーディング('08)』、『ヘイル、シーザー!('16)』とこれ迄に四度コーエン兄弟の作品に出演してきたG.クルーニーが(共同)製作・脚本、監督を手掛けた一作。画面に出る事無く、G.クルーニーが裏方に徹した初めての作品である。ちなみにG.クルーニー監督としては、HBOで放映されたTV用コメディムービー"Unscripted('05)"の五本(エピソード)を除くと、『コンフェッション('02)』を皮切りに『グッドナイト&グッドラック('05)』、『かけひきは、恋のはじまり('08)』、『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~('11)』、『ミケランジェロ・プロジェクト('14)』に次ぐ六作目の(劇場版)監督作となる。

・相変わらずコーエン兄弟の本では、簡単に人が死ぬ(本作では七人が作中で死亡)。毎度毎度、物語の終焉には屍人の山であり、それはこの二人が書くのは寓話的だと云う事の証なのだろう。

・“ローズ・ロッジ”と“ マーガレット(マギー)・オロリー”の二役を熟したJ.ムーア、“バド・クーパー”のO.アイザックは流石の存在感と演技を披露している。特に“バド・クーパー”が“ロッジ”家を訪問した後の“マーガレット(マギー)”との遣り取りは、見応えがあり、とても愉しめた。

・終始、控えめだったキャラクターである“ガードナー・ロッジ”を演じたM.デイモンは、いつになく抑え目の演技であったが、この物語の一番の悪人を考えた時、彼が一番に浮かぶ。中盤に自らの事務所で暴行を受けた後、テープで眼鏡を補強するが、よく見るとシーン毎にテープの貼り位置が微妙に変わっている。同様に終盤、返り血を顔とシャツの腹部等に受けるが、これらも微妙に位置や量が変わっており、どの順番で撮影されたかが、朧げに想像出来る。

・T.エスピノサの“アンディ・マイヤーズ”とN.ジュープの“ニッキー・ロッジ”がそれぞれの寝床で聴こえていた音声は、R.ブラッドベリ原作、W.コンラッドがナレーションをA.ムーアヘッドが主演を勤め、NBC系列で'58年8月月31日に放送されたTVシリーズの"Protégé"である。

・当初、J.ブローリンが野球チームの監督として出演していたが、関係者を集めたテスト上映の後、全シーンをカットされてしまった。どうやらこの役は、コメディリリーフ的な役割があったらしく、監督自身は作品のメリハリをつける意味で少しでも出演個所を残したかったようだが、叶わなかったと云う。W.ハレルソンも何等かの役でオファーを受けたが、スケジュールが合わず、出演出来無かったらしい。主にロケーション管理等でR.ボキデスがスタッフとして携わっていたが、度々監督と衝突し、約二週間後に解雇された。彼の後任はM.J.バーマイスターが就いた。

・引っ越してきた“マイヤーズ”家への住民達のバッシングは進行と共に激化し、クライマックス附近では暴徒化するが、これはペンシルバニア州レヴィットタウンで起こった実話に基づいている。途中やラスト近くで流れるTVからの音声や映像は、この件を扱った"Crisis In Levittown、PA"と云うドキュメンタリーであり、この動画は「You Tube」等の動画サイトで容易に閲覧する事が出来る。

・鑑賞日:2020年1月5日(日)