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雲のむこう、約束の場所のhitomaのレビュー・感想・評価

雲のむこう、約束の場所(2004年製作の映画)
4.4
『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを飾った新海誠の初の長編映画。彩度の高いトレースで描かれた美しい背景。思春期の男女の心の機微や距離感に焦点をあてながら、それを直接世界的なスケールで語るセカイ系の物語構造。自己内省的なモノローグといった新海誠作品の特徴はこの作品でも前面に出ている。前作よりもSF設定と描写は深くなり、政治的な要素や駆け引きを描く事にも挑戦している。

個人制作から共同制作となり、制作上の制約から解き放たれた事で、たった2人だけだった登場人物は端役も含めて総勢8名と4倍になり、リミテッドアニメーションの極地とも言えたような『ほしのこえ』と比較すると、登場人物たちは活き活きと感情豊かに動く。『ほしのこえ』では出来ずにもどかしいと感じていた事にも積極的に挑戦出来たのだろう。

4作目の『星を追う子ども』以降、新海誠は美術監督からは外れるので、新海誠作品に特徴的な美麗な背景を新海誠自身が主だって描いた長編作品はこの作品だけなのかもしれない。『星を追う子ども』以降も美麗背景は特徴の1つとして生き続けるが、微妙にタッチが異なっていく。

同人の雰囲気を残している初期3部作の1つである一方で、規模も質も大きく上がった作品として、楽しめる作品だ。
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