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天気の子のhitomaのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.2
新海誠監督の叙情性や作家性は短編『言の葉の庭』でピークを迎えて『君の名は。』以降は一気に大衆的になる。『君の名は。』は明るく分かりやすく共感を得やすいハッピーエンド。それでいてどんでん返し的要素もあり、非常に完成度の高い映画だった。異論はあるだろうが個人的には売れる要素しか無かったと思う。

一方で『天気の子』は『君の名は。』と比較すれば、そうした大衆性をやや抑え気味にしている。ストーリー設定的には主人公とヒロインの関係性が中間のグループを経ること無くそのまま世界(今回の場合は東京)全体の情勢に直結していくという点で、処女作である『ほしのこえ』や2作目の『空の向こう、約束の場所』に通じる部分があり、往年のセカイ系を彷彿とさせていた。そういう意味では原点回帰的だった。

原点回帰的である一方で、天気をモチーフにするのは『言の葉の庭』的だし、天気の巫女の伝説のくだりは、古文をモチーフにした『言の葉の庭』や『君の名は。』に通ずる所がある。主人公がオカルト雑誌ムーに関わる所はそのまんま『君の名は。』だ。他にも彼岸の世界観の表現にはジブリのファンタジーを目標にした『星を追う子ども』の表現が活きているように感じた。唯一『秒速5センチメートル』については大きな関連が無いように思えたが、雪が舞う描写を見て秒速を思い出したファンはきっといるはず。

そうした新海誠監督の歴代作品の要素が取り入れられていて、かつきちんと昇華されて、新しいものへと変化していた。そういうある意味真面目な所が監督の魅力だし立派な所だと思う。少なくとも新海誠監督は、売れるにつれて商業的になっていって、古くからのファンを裏切るという様な事が無いと思う。逆に言えば初期の頃からやや商業的であったと言えばそうなのだけれど。

セカイ系らしく、終盤にかけて丁寧に盛り上がっていく楽しい映画だった。そして、要所要所でRADWIMPSの繊細かつ美しい音楽が活きていく。初めて映画館で2回観て、パンフレットとサントラを買った映画は『君の名は。』が初めてだったのだけれど、『天気の子』も、必ずもう一回は観に行くと思うし、ロングラン上映となるなら、もしかしたら3回目も行くかもしれない。
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