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黒い十人の女のakrutmのレビュー・感想・評価

黒い十人の女(1961年製作の映画)
5.0
テレビ局でプロデューサーをしている浮気者の男性の妻と9人の愛人の奇妙な関係を描いた、市川崑監督のコメディ・ドラマ映画。表面的に仲良さそうに振る舞いながら、心の中では他の愛人たちを出し抜こうとする個性の異なる女性たちが、可愛さ余って憎さ百倍で、好きになった男を殺す相談をするというストーリー。

鑑賞しての印象は、とてもかっこいい映画という一言。市川崑監督の初期作品を特徴づける都会派コメディ、そしてクールでスタイリッシュな作風の到達点が本作品だと言えるほど、完成度は高い。まずは、市川崑作品を特徴づける「弱々しい男とたくましい女」を基本に、女どうしのしたたかな争いをコメディタッチで描いている、和田夏十の脚本。その完成度の高さは、その後に何度もドラマ化や舞台化されていることからも明らか。(ちなみに、2016年のドラマ化作品でプロデューサーの男性を演じたのは、本作でその役を演じた船越英二の息子である船越英一郎。)

その中心となるプロットが、本妻・双葉と愛人・市子の化かし合い。この二人を演じる山本富士子と岸惠子が素晴らしく、特にこのようなしたたかな女性を演じる山本富士子が、個人的には新鮮。また、ねむの木学園設立者のイメージしかない宮城まり子もいい味を出している。また、テレビ局を舞台にしている点は、テレビ=都会的という当時のイメージが反映されていると思われるが、映画で仕事をする監督ならでは風刺も含まれているかもしれない。

そしてもちろん、モノクロ映画ならではの強い陰影のコントラストによるスタイリッシュで審美的に優れた映像や、不安定さを強調するアンバランスな構図なども、とてもかっこいい。
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